(仮)アホを自覚し努力を続ける! -36ページ目

(仮)アホを自覚し努力を続ける!

アウグスティヌスの格言「己の実力が不充分であることを知る事が己の実力を充実させる」

「解雇規制緩和」の破滅的危険性
~解雇規制の緩和は全ての労働者の生活と労働組合に壊滅的な打撃を与える
(棗 一郎 弁護士)


5.限定正社員(ジョブ型正社員)は解雇のしやすい正社員を作ることではないのか?

 雇用ワーキンググループの報告書(5頁⑶)は、①限定正社員の「職務や勤務地が消滅した際には、無限定正社員とは異なる人事上の取り扱いを受ける可能性が大きい」とし、さらに、6頁②で、ジョブ型正社員にふさわしい労働契約紛争解決の在り方について検討するとして、「勤務地限定型、職務限定型正社員については、労使の話し合いを経たうえで、就業規則の解雇事由に「就業の場所及び従事すべき業務が消失したこと」を追加することが想定される」としている。そして、勤務地・職務が消失した際の解雇については、労働契約法16条(特に整理解雇4要件)が適用されることになるとしている。この点につき、鶴座長は、「無限定正社員と同じルールを適用するのであって、解雇しやすい正社員を作るということではなくて、過去の裁判例を見れば、結果的に職務限定・勤務地限定の社員の整理解雇はしやすくなっており、解雇しやすいカテゴリーというのはある。裁判例の積み重ねの中で、労使が納得できるルールができれば、立法化していくべきである」ということであった。

 しかし、経営上の都合で事業所や店舗を閉鎖する場合に、たとえ勤務地や職務が限定した労働契約であったとしても、そこで働いていた労働者を解雇する場合には「整理解雇の4要件」が適用される(労働契約法16条)。事業所閉鎖による人員削減の必要性、人選基準の合理性、他の勤務場所や仕事への配転可能性など解雇回避努力、労働組合や労働者に納得を得られるような説明・協議を尽くしたかが問題となり、簡単に解雇できるわけではない。

 実際に、労使慣行でも、ある大手の流通グループでは、経営上の都合で小売店舗を閉鎖する場合でも、まず他の店舗などへの配転を打診して、それが無理なら同じ地域内で同業他社で異動できる店舗がないか探してみて、それでも見つからなければ、辞めてもらうという解雇回避の努力を労使で行っている。働く人の雇用を維持するための当然の努力である。

 このままでは、「勤務地や職務が限定されている場合には、それが消失すれば簡単に解雇できる」という誤った言説が広まってしまい、使用者によって「限定正社員」が濫用される危険が大きい。これまで正社員として働いてきた労働者が、企業の都合によって一方的に限定正社員にされてしまい、賃金や労働条件が下げられたり、解雇がしやすくなってしまうという事態が容易に推測できる。企業にとって安くて使いやすい新たな雇用形態を作り出すことになりかねないので、このような危険が払しょくされない限り、「限定正社員」を増やすという政策には賛同できない。

 報告書は「最終的には、立法的な手当て、解釈通達において明確化することも視野に入れるべき」としているが、どのような立法を考えているのか不明であり、労働契約法16条の適用除外などは法律論として論外である。

 解雇ルールの整備が必要だというのなら、まず法的判断の基本となる判例法理の「整理解雇法理」を立法化して、骨格となる法律(ルール)を明文化したうえで議論すべきである。
「解雇規制緩和」の破滅的危険性
~解雇規制の緩和は全ての労働者の生活と労働組合に壊滅的な打撃を与える
(棗 一郎 弁護士)


4.解雇の金銭解決制度の恐ろしさ~労働組合に対して壊滅的な打撃となる

 解雇の金銭解決制度とは、裁判所が解雇無効と判断しても、使用者が一定の金銭を支払えば労働契約を終了させることができる制度である。現在は、上記のように、弱い立場の労働者が解雇されているが、解雇の金銭解決制度が導入されると、使用者はどんな不当な理由でも構わないから、気に入らない、首にしたいと思った労働者を解雇して、金銭を支払って退職させることが自由にできるようになる。いわば、“解雇をお金だけで買える”制度である。

 そうなれば、使用者は労働組合の組織を簡単に壊滅させることができる。たとえ不当労働行為目的でも、労働組合との間で解雇協定があろうとも、どんな違法な解雇であろうとすべて金銭で解決されるのだから、労働組合の執行役員や職場のリーダーを何の理由もなく解雇して職場から追い出すことができるようになる。実際の裁判では、違法であることが明白な事件であっても、使用者は解雇が有効か無効かの実体審理に入ることなく、訴訟が提起されたら直ちに原告の請求を認諾して解雇無効を認めたうえで、お金を払って雇用終了に持っていく。ある使用者側の弁護士は「使用者側は労働者を解雇して、裁判でも争わず、お金を払って終わりにする。そうすれば実際にどんな人でも解雇自由になる。だから、反対だ。」ともらしていた。

 この制度が導入されて、労働者が使用者に少しでも文句を言えば、見せしめとしてすぐに解雇されることになると、誰も使用者に対して文句を言えない職場になり、労働組合に入ろうとする人はいなくなってしまう。労働組合の団結は消えてなくなる。労働者はいつ首を切られるか毎日怯えながら仕事をしなければならなくなる。歴史を遡り、暗黒の奴隷制度の時代に逆戻りである。

 今年の5月15日、日本労働弁護団主催ですべての労働組合に参加を呼び掛けて、「解雇規制緩和に反対する集会」を開いた。連合本部からも方針を報告してもらったが、連合非正規センターの田島恵一さんが、「不当解雇を争って闘うのは労働者の名誉と尊厳を回復する闘いであり、解雇の金銭解決制度が導入されれば、労働者にとって名誉回復の闘いができなくなりその機会が奪われてしまう。」と発言されていたのが印象的であった。
「解雇規制緩和」の破滅的危険性
~解雇規制の緩和は全ての労働者の生活と労働組合に壊滅的な打撃を与える
(棗 一郎 弁護士)


3.政府・財界の解雇規制緩和論の問題点

 今回の政府の各種会議と使用者側のいう解雇規制緩和論の最もおかしい点は、わが国の労働現場の実態を知らないで(あるいは知っていても無視して)議論をしていることである。職場(労働現場)の実態を知らないで解雇規制の緩和を議論するのは誤りであるし、また、現在のわが国の労働法制について誤った理解の下に議論するのも大きな誤りである。これでは今後のあるべき労働法制度の在り方を間違って捉えてしまう。政府の解雇規制緩和論は労働現場の実態を知っているサラリーマン労働者と労働組合に対して全く説得力がないものとなっている。


(1)日本の解雇規制は本当に世界一厳しいのか?

 産業競争力会議や一部のマスコミは、日本の解雇規制が世界一厳しすぎるから労働力の移動が起きない、従業員を切りにくいので企業経営の足かせになっている。だから、わが国の解雇規制を緩和し、解雇を自由にできるようにするべきだというような議論をしているが、これは全くの誤解である。

 OECD(経済開発協力機構)が2008年に発表した「雇用保護法制に関する指標(EPL指標)」によれば、日本は加盟国30ヵ国中、解雇規制の弱い方から7番目であり、正社員(常用雇用)の指標だけを見ても解雇規制の強い方から18番目(弱い方から12番目)で中程度であり、世界的にみても日本の解雇規制は厳しくない。

 戦後の日本の解雇法制は、長い間労働基準法20条の解雇予告手続きしかなく、一般的な実体的解雇規制がなかったため、裁判所で半世紀を経て形成されてきた解雇権濫用法理しかなかった。この判例法理がようやく立法化されたのは2003年である(労基法18条の2)。その後、2006年になって、ようやく労働契約関係を規律する一般法としての労働契約法が施行され、解雇権濫用法理は同法16条に移されただけである。この際に、判例法理で確立している「整理解雇法理」や有期雇用の雇い止めに解雇権濫用法理を類推適用して規制をかける「雇止め法理」は立法化されなかった。このうち、有期雇用の雇い止め法理が立法化されたのはつい最近、昨年の労働契約法改正においてである。整理解雇法理は未だに立法化されていない。

 一方、国際的にみると、1982年にILOでは、解雇には正当な理由を必要とするルールを定めた第158号条約「使用者の発意による雇用の終了に関する条約」及び第166号勧告が採択され、EU諸国や韓国などでは法制化されている。

 このように、日本の解雇法制の立法化は世界各国に比較して大変遅れており、その規制内容もごく常識的な世界標準である。「わが国の解雇規制が世界的にみて厳しすぎる」などという言説は完全に誤りである。


(2)日本の労働現場では解雇は限りなく自由に近いのが現状である

 私は年間50件程度、労働者や労働組合から労働事件を受任して弁護士として活動しているが、私が担当している解雇・リストラ事件は相変わらず酷い実態である。

 例えば、①中規模証券会社のディーリング部門の労働者(職務限定)が、10年以上も1年有期労働契約を反復更新してきたのに、昨年の契約期間途中で、何の事前の説明もなく、いきなり部門閉鎖だから解雇通告されたという事件が複数の会社で発生した。有期労働契約期間中の解雇であるから、労働契約法17条1項の適用により、使用者は「やむを得ない事由」がない限り労働者を解雇できないのであり、これは通常の解雇権濫用法理(同法16条)よりも厳しい要件と解釈されている。使用者はめったなことでは解雇できないにもかかわらず、簡単に解雇するのである。労働審判を申立てて、解雇無効を前提に解決した。

 また、②タクシー会社で、労働者に事前に何の通告も相談もなしに、営業所閉鎖の全員解雇を紙一枚で通告したという整理解雇事件では、その3週間前に営業所は閉鎖しないと社長が朝礼であいさつしていたにもかかわらず、従業員をだまし討ちにして突如解雇したという事案である。これも労働審判で解雇無効の審判が出た。

 ③運送会社の労働者4人が労働組合に加入して団交を申し入れた途端に解雇通告をしてきた。会社は組合に一度も連絡をすることなしに、解雇通告して一切の団交を拒否した。有名な財閥系大企業の子会社の事件である。最高裁で解雇無効の判決が確定し、全員が職場に復帰した。

 ④退職勧奨を拒否したら、人材開発部付きの追出し部屋に異動させられ、自分の仕事を探すのが仕事と言われた事件で、昨年夏東京地裁立川支部の判決で違法な制度であったと認定されたベネッセコーポレーション事件もある。朝日新聞でも大きく報道された。

 ⑤世界的に有名な総合複写機の製造販売会社で、リストラ(人員削減計画)に基づき、会社から退職勧奨をされて、それを断ったら、それまで設計部門の中枢にいて多大な貢献をしてきた技術職の労働者をグループ子会社の物流倉庫(肉体労働)に人事異動した事件では、労働審判で出向無効の審判が出された。

 ⑥途中入社の経理担当の女性労働者が労基法どおりの残業代が支払われていないのではないかと社長に疑問を呈しただけで、一度も経験したことのない営業職へ嫌がらせ配転をされたうえ労働審判を申立てた途端に解雇されたという事件もある。

 ⑦自分が入社以来担当してきた顧客の技術サポートの仕事は存続しているのに、親会社の方針で廃止することになったからといって、いきなり解雇通告を受けた。解雇理由証明書を出せと抗議したら、主たる解雇理由が1年~2年も前の「日報」が不提出・内容が不十分だという理由であり、労働審判であまりにも酷い解雇なので直ちに無効の結論が出た事案であった。

 このように数えても数えても切りがないほど酷い解雇事件が多発している。毎年厚生労働省が発表する労働局の総合労働相談コーナーの労働相談統計をみても、毎年、総合労働相談件数は100万件を超え、そのうち、民事上の個別労働紛争相談件数は、25万件を超えている。平成24年は、初めて職場のいじめ・嫌がらせの相談件数がトップになり、解雇事件は5万1000件で、退職勧奨の相談の2万5000件以上を合わせると解雇・退職勧奨(リストラ)の相談が断トツで一位を占めている。ところが、労働局の助言・指導件数はわずか1万件を超える程度で、あっせん申請はわずか6000件程度にすぎず、ほとんどの労働者が泣き寝入りしているのが実態である。

 このように、日本の労働現場では限りなく解雇は自由に近く、解雇規制法規があってもないかのごとくである。したがって、現在の日本で解雇規制を緩和しなければならないという立法事実は皆無である。このような労働現場の状況で、解雇規制を緩和するなどという政策を取れば、事態はもはや収拾がつかなくなるところまでタガが外れてしまう。