アベノミクスと公的年金の関係~物価や賃金が上昇すると公的年金はどうなるのか?
(ニッセイ基礎研究所 年金総合リサーチセンター 主任研究員 新美隆宏)
3――アベノミクスと公的年金
1|物価上昇率と公的年金の関係
昨年の民主党・自民党・公明党による3党合意を受けて、社会保障制度改革国民会議が中心となって年金の制度の見直しなどを議論しているが、まずは現状を確認したい。
公的年金の年金額の改定方法は、2004年の制度改正で大きく変わった。制度改正前は、年金額は物価上昇率に連動していたが、制度改正後は物価上昇率だけでなく賃金上昇率とも連動している。この仕組みの基本的な考え方を説明すると、年金額は毎年見直され、その改定率(年金改定率)は、物価上昇率と賃金上昇率の組み合わせによって6パターンに分類される(図表4)。アベノミクスにより物価と賃金の双方が上昇すると仮定する場合、(1)もしくは(6)のパターンに当てはまり、物価と賃金のいずれか低い方の上昇率が本来の年金改定率となる。
2004年の制度改正では、マクロ経済スライドという仕組みも導入された。マクロ経済スライドとは、少子高齢化が進んで公的年金の財政が悪化する中、これを改善するために年金財政が改善するまでは労働人口の減少や長寿化に応じて毎年約1~2%ずつ受給者の年金額を減らす仕組みである。具体的には、現役世代(支え手)の減少と高齢者の年金受給期間の増加の2つの要素を勘案した「スライド調整率」を用いた調整を行う。一定の期間、上述の本来の年金改定率からこのスライド調整率を減じた値を、実際に適用する年金改定率として用いる。これにより、財政の均衡が図られるように改定率を抑制するのである。しかし、これには例外があり、物価や賃金が低下している状況下では、機械的にスライド調整率を減じない措置(名目下限ルール)が講じられている(図表5)。
これらのルールを理解した上で、現在の年金額がどのような水準となっているかを説明する。現在支給されている年金額は、過去の物価下落局面において年金額を据え置くという特例措置を講じたことにより、実際の年金額の水準(物価スライド特例水準)が、2004年の制度改正で予定していた水準(本来水準)よりも2.5%高い水準(特例水準)となっている。この特例水準を解消するために昨年11月に法改正を行い、仮に今後3年間の物価や賃金が横ばいであっても、2013年10月に▲1%、2014年4月に▲1%、2015年4月に▲0.5%の年金額の引き下げを行って、特例水準を解消することとした。なお、物価や賃金が上昇する場合は、その水準に応じて特例水準の解消分の引き下げ幅が相殺され、物価スライド特例水準と本来水準の乖離が解消する時期が早まって、本来のマクロ経済スライドの発動時期の早期化が起こりうる。
2|アベノミクスと公的年金の関係
アベノミクスにより物価や賃金が上昇するとの仮定の下で、これらが公的年金の支給額に及ぼす影響を試算してみたい。
試算の前提として、物価上昇率については、日銀の展望レポート、弊社エコノミストの見通しの2種類を仮定する。次に、賃金上昇率の仮定について考える。先日発表された経済・財政運営の指針となる「経済財政運営と改革の基本方針」(以下では「骨太の方針」)では、中長期的には年3%を上回る一人当たり名目国民総所得(GNI)の伸びを期待している。GNIには企業収益も含まれるため「GNI上昇率=賃金上昇率」ではないが、賃金上昇率が毎年3%の場合(想定①)、半分の1.5%の場合(想定②)、横ばい(0%、想定③)の場合の3通りを仮定する。なお、年金改定率に用いる賃金上昇率は3年平均の値を用いるため、その変化は遅効的な動きとなり、仮定の水準に達するまでに3年を要する。上述の想定値を物価上昇率と賃金上昇率の前提とする場合の年金改定率の試算を行なう(図表6)。
展望レポートの物価上昇率を前提する場合の試算結果を見る。2014年度は、賃金が上昇する想定①、②では、賃金上昇率が物価上昇率よりも低いため、賃金上昇率分に特例水準の解消分を加えた水準(想定①は▲0.4%、想定②は▲0.9%)が年金改定率となる。2015年度は、特例水準の解消分とスライド調整率xを合せた▲1.7%に対して、想定①では物価上昇率より上昇率が低いものの賃金上昇率が1.8%であるため、年金改定率は0.1%となり、マクロ経済スライドが完全に適用される。想定②では賃金上昇率が0.8%であるため、特例水準の解消分は上回るものの、名目下限ルールにより年金改定率は0%となる。2016年度は、特例水準の解消は終了している。想定①では物価上昇率からスライド調整率を減じた1.5%、想定②では賃金上昇率からスライド調整率を減じた0.4%が年金改定率となり、想定①、②のいずれにおいてもマクロ経済スライドが完全に適用される。
次に、弊社エコノミストの物価上昇率を前提する場合の試算結果を見る。2014年度は、賃金が上昇する想定①では物価上昇率が賃金上昇率よりも低いため、特例水準の解消分に物価上昇率分を加えた▲0.7%が年金改定率となる。想定②では、特例水準の解消分に賃金上昇率を加えた▲0.9%が年金改定率となる。2015年度は、展望レポートの物価上昇率の見通し水準とは異なるものの、想定①、②ともに物価上昇率よりも賃金上昇率が低いことは同様であるため、年金改定率は展望レポートの場合と同じとなる(想定①は0.1%、想定②は0%)。2016年度は、想定①、②ともに物価上昇率からスライド調整率を減じた0.1%が年金改定率となり、マクロ経済スライドが完全に適用される。
賃金上昇率が想定③の場合は、物価の見通しに関わり無く2014 年度、2015 年度は特例水準の解消分が反映された年金改定率、2016年度は名目下限ルールにより年金改定率は0%となる。








