(仮)アホを自覚し努力を続ける! -26ページ目

(仮)アホを自覚し努力を続ける!

アウグスティヌスの格言「己の実力が不充分であることを知る事が己の実力を充実させる」

良い金利上昇と悪い金利上昇
(ニッセイ基礎研究所 金融研究部門 主任研究員 千田英明)



4――おわりに

 良い金利上昇でも悪い金利上昇でも金利が上昇することに違いはなく、運用損益は同じなのだからどちらでも関係ない、と思うかもしれない。しかし、良い金利上昇であればいずれ金利上昇は止まり、再び投資機会が訪れることからそのまま投資を継続していて良い。一方で悪い金利上昇であれば金利上昇(価格下落)は止まらず、最悪は債券が紙切れになることも覚悟しなければならない。投資を継続するかどうか、重要な判断を迫られる。

 マーケットには説明できない要因が多く含まれている。最終的に取引が成立する値は、売る人と買う人双方の合意に基づいて決まるものであるが、実際に売買している当事者も何故この値になるのかは分からないだろう。売り方が多ければ値は下がり、買い方が多ければ値は上がる。売買している当事者もその動きについていくしかない。では、売り方は何故売ろうと思うのか、買い方は何故買おうと思うのか、その理由も様々である。株価が上昇するから債券を売って株を買う、財政状況が不安だから債券を売る、などの理由も考えられるが、単に値が下がるから売る、資金が必要になったから売るなど個別の事情もあるだろう。

 金利上昇の要因はこのように混在して発生している。本レポートでは、それらをできるだけ数値化してその影響割合を計算しようと試みたが、数値化できたのは良い金利上昇のみで半分程度である。残り半分が悪い金利上昇要因かどうかは定性的に判断するしかないが、一定の割合で含まれていると考えるべきであろう。その他にもマーケットの過熱感やキャッシュ・フロー調整など、良い金利上昇や悪い金利上昇に関係なく変動する部分もある。そのため、定量的な分析に加えて定性的な判断も重要になる。「最近の金利上昇は良い金利上昇だ。」と一言で説明されることがあるが、それは主な要因を説明しているだけであるので、様々な要因を総合的に調査・分析していくことが必要である。

良い金利上昇と悪い金利上昇
(ニッセイ基礎研究所 金融研究部門 主任研究員 千田英明)



3――悪い金利上昇要因


 悪い金利上昇要因については、相関係数の計測が困難である。財政不安は負債残高等から数値を見ることはできるが、それは長期間にわたって変化するものであり、短期間に変動する金利との相関関係はほとんど見られない。また、悪い金利上昇要因が増えても、それが金利上昇に結びつくまでには一定の時間を要したり、逆に将来悪い金利上昇要因が増えることを予想してマーケットが先に変動したりすることもあるため、そこに一定の規則性は見られない。


 良い金利上昇要因は様々な経済指標との相関関係を見ることにより、ある程度の影響度合を定量的に計測できたが、悪い金利上昇要因については、様々な要因を定性的に判断する必要がある。



1|財政の状況


 日本の財政状況は着実に悪化してきている。負債残高は過去最高を更新し続け、GDP当たりの負債比率は先進国の中で突出している。今後は消費税を増税することによりこのペースが緩まる見通しであるが、この傾向を止めて反転させることができるかどうかまでは不透明である。負債残高は今後も更に増加する可能性が高い。


 財政悪化が国債デフォルトに結びつく過程は、海外ではいくつかの事例がある。しかし、現在の日本はこれまでの海外事例とは異なる特殊な状況が発生していると考えられる。日本政府単体の財政状況を見ると、海外の事例と同様に考えれば既にデフォルトしてもおかしくない。しかし、どんなに債務が超過していても資金調達が安定していればデフォルトすることはない。企業でも資金調達できれば、赤字でもデフォルトせず、逆に資金調達が出来なければ黒字でもデフォルト(黒字倒産)することがある。日本の国債は日本国内の投資家がほとんど購入しており、資金調達が非常に安定している。沢山の国債を発行しても、低金利で安定して調達できている。日本政府単体では資金不足状態であっても、日本国全体では資金余剰状態となっている(図表4)。





 しかし、この状況がいつまでも続くとは限らない。これまで、国債を消化する元の資金とされてきた個人金融資産はこれ以上の増加が難しいと考えられる。高齢化が進行していくと、預金を積み上げる人よりも、取り崩す人の方が多くなるためだ。企業も資金余剰主体であるが、これは企業が設備投資を見送って借金の返済に充てているためである。企業は本来、資金を設備等に投入して事業を拡大していく姿を目指しているはずであり、現在のように投資を手控える状況がいつまでも続くとは考えられない。政府も企業の投資を促すような政策を実施している。このように、個人も企業も資金不足になり政府の発行する国債を消化できなくなると、今後は海外に資金を求めなければならなくなる。そうすると日本の国債は日本国内の投資家が購入しているから問題ないとはいえなくなってくる。


 日本国内全体の資金過不足状況を示す指標として経常収支がある(図表5)。経常収支とは国際収支を構成する一項目である。国際収支は、複式簿記の方法をとっている関係から経常収支や他の項目と合わせると全体は常にゼロになる。そのため、経常収支は他の項目の裏返しの数値とも言える。他の項目とは、主に資本収支と外貨準備増減である。資本収支は対外資産の増減を示し、外貨準備増減は政府管理下の対外資産増減を示す。つまり、資本収支と外貨準備増減を合わせると日本国内全体の資金過不足を把握することができる。




 経常収支は主に貿易収支と所得収支で構成されている。日本はこれまで貿易収支がプラスになることで経常収支をプラス(資金余剰)に押し上げてきたが、直近では貿易収支がマイナスに転落しており、今後もプラスになるかどうか不透明な状況である(図表6)。一方で所得収支はプラスで安定しており、今後もこの傾向は続く見込である。所得収支は主に海外に所有する資産から発生する受取利息などで構成されるが、日本は対外純資産が世界1位であり、それらから発生する利息などで今後も所得収支はプラスを維持できる見込みであり、経常収支のプラスも維持できるであろう。





 仮に経常収支がマイナスに転じたとしても、対外純資産を取り崩すことにより資金不足を補うことも可能である。これまで、国債は日本国内の投資家がほとんど購入していて日本全体では資金余剰(フローベース)なのだから安全だと言われてきた。今後、仮にフローベースで資金不足になったとしても、対外純資産がプラスでありストックベースでは引き続き資金余剰なのであるから、国債を日本国内で消化する能力はあると考えられる。


 このように、日本の財政状況は危機的であるが、日本国内の投資家で国債を持ち続けることはまだ可能と考えられる。しかし、日本国内の投資家自身が海外に資産を移転する可能性もあり、政府単体での財政収支改善が望ましいことは言うまでもない。来年度以降、消費税が増税されてある程度の財政改善が期待できるが、万が一(今では千に一、百に一ぐらいの確率か、あるいはそれ以上かもしれないが)消費税増税が見送られるようなことがあれば、悪い金利上昇に結びつく可能性もある。今後の財政運営には目が離せない。



2|リスク回避傾向について


 悪い金利上昇のもう一つの要因として、リスク回避傾向がある。リーマンショックなどのように急激な混乱がマーケットで起こり、株式も債券も全て売却してマーケットリスクを回避しようとする動きが発生するのである。これについては、何らかのイベントをきっかけとして急に発生する要因が多く、定性的に判断していくしかない。しかし、最近の金利上昇で発生していると考えられる流動性の低下については、ある程度数値化することも可能である。流動性については、債券の発行額と明確な関係がある。発行額が多ければ売買される量が増え、流動性が高まるためだ。しかし、発行額が多くても、それを売買しないで持ち続ける投資家(日銀など)がいると結局売買できなくなるため、流動性が低下してしまう可能性がある。4月4日に日銀は大規模な金融緩和政策を発表し、国債(年限2年以上)の保有残高を毎年50 兆円増加させるとした。政府が発行する国債(年限2年以上)の発行残高は、毎年30~40兆円程度しか増加してないため、日銀が購入する額はそれを上回ることになる。つまり、マーケットに流通する国債は減少し、流動性が低下することが懸念された。実際に流動性が低下するのは、日銀が購入した後のはずだが、マーケットでは将来の流動性低下を見越して国債を売る動きが見られた。


 このように、悪い金利上昇要因は数値で明確に示せるものではないが、その要因は着実に増加してきている。そのため、債務残高、経常収支、対外純資産、流動性などの数値を総合的に分析しながら、同時に金利の動きを注視していくことが必要であろう。悪い金利上昇要因は長期間にわたり少しずつ変化していくため、それが金利上昇に結びつくタイミングを見極めることも大切である。

良い金利上昇と悪い金利上昇
(ニッセイ基礎研究所 金融研究部門 主任研究員 千田英明)



2――良い金利上昇要因


1|株価と長期金利の関係


 株価と長期金利の相関係数を計算したものが図表1である。この中で最も相関係数が高いのが、タイムラグを設けず、日次の収益率で計算期間を短く(20日)したものである。これにより、株価と長期金利との相関係数は時期によって大きく変動するが、ここ数年は概ね0.3~0.6ぐらいで推移していると考えられる。相関係数のように統計的な処理をする数値については、データ数が少ないと数値の正確性が不十分な可能性もあるが、データ数の多いケース(100日)を見てもほぼ同様の傾向が見られる。よって、株価と長期金利との間には想定通り正の相関関係(株価が上昇すると長期金利も上昇する関係)があり、その関係の強さは半分ぐらいあると考えられる。





2|設備投資と長期金利の関係


 次に、設備投資と長期金利の相関係数を計算してみた(図表2)。すると、係数が+0.3~+0.5などある程度高い時期も見られるが、逆に-0.5~-0.7などマイナスで推移している時期もあり、直近ではほぼゼロとなっている。平均すると相関係数はほぼゼロとなり、相関関係はほとんどないと考えられる。相関係数を計算するデータの期間、タイムラグなどを変えても、ほぼ同様の結果が得られた。




 これについてもデータ数が少ない(最大20)ことが懸念されるが、データ数を(70程度まで)増やすとより相関係数が下がる傾向にあり、基本的に相関関係はないと考えるべきだと思われる。


 企業はバブル崩壊以降、長期の資金需要を伴った本格的な景気回復局面を迎えていない。そのため、基本的には設備投資を抑制しており、余剰資金も負債の返済に充てられることが多い傾向が見られる。


 よって、景気が回復して設備投資が盛んになり、資金需要が増えて金利上昇にまで結びつくような局面は最近ではほとんどなかったと考えられる。そのため、設備投資と長期金利の相関関係は、ほぼゼロとなったのであろう。


3|物価と長期金利の関係


 物価と長期金利との相関係数(図表3)についても設備投資の場合と似た結果となった。相関係数は、+0.4~+0.5とある程度プラスの関係が見られる時期もあったが、逆に-0.4~-0.5とマイナスで推移している時期もあり、直近ではほぼゼロとなっている。平均すると相関係数はほぼゼロとなり、相関関係はほとんどないと考えられる。


 そもそも、物価上昇が金利上昇に結びつく過程においては、中央銀行が物価上昇を抑制しようと金融引締め(金利上昇誘導)スタンスをとる必要がある。しかし、バブル崩壊以降は直近も含め中央銀行は、ほとんどの期間において金融緩和(金利低下誘導)スタンスをとってきた。そのため、現状では物価上昇と金利上昇との関係を見る意味はあまりない。また、中央銀行が主に誘導する金利は長期金利ではなく短期金利である。そこで、短期金利と物価との相関関係も見てみたが(図表3)、長期金利とほぼ同じ傾向であり、やはり物価が金利に与える影響は直近ではほぼゼロと考えられる。物価と金利との関係については、バブル崩壊前など金利が高く中央銀行も高い金利に誘導していた時期は明確な相関関係があったと考えられるが、現在のように短期金利がゼロ%近辺で推移している状況では相関関係はほとんど見られなくなっている。




 相関係数については、2つのデータ間の類似性の度合いを客観的に数値化しただけのものであって、そこにどれだけ因果関係があるのかなどを示すものではない。何の関係もない2つのデータが偶然一致して、強い相関関係を示すこともある。しかし、今回比較したデータは良い金利上昇が発生する原因となる指標で、どれも金利との関係が強いと考えられるデータばかりである。よって、実際に相関関係が強かったものについては相応の因果関係があると考えられる。


 以上から、良い金利上昇要因としてその関係があると確認できたものは株価と長期金利の関係のみで、概ね半分ぐらいの強さであることが分かった。長期金利上昇要因のうち半分ぐらいは株価上昇による影響であると考えられる。つまり、これまでの金利上昇は100%良い金利上昇によるものだと言い切るには不十分であろう。