税制から考える貧困と地方創生
(岩本 沙弓 大阪経済大学客員教授)
経済貧困問題を解決するハイパーローカル
消費税の還付が形骸化せず、地方創生に役立っている稀有な例もある。愛媛の今治市には創業1901年以来これまで2000隻を超える新造船を就航させている今治造船がある。1隻の船の造船期間は35日、同時進行で何隻も作っているため2週間に一度は進水式をしている状況で、ここ5~6年を見ても年間90隻以上を作り上げている。2012年度の国内合計建造隻数の実績は586隻、今治市内で作られた隻数は国内シェアの19.1%を占める。今治市以外に四国・広島にも工場があるため今治造船グループ全体では国内シェアの実に30%を占める。
世界最大の海事データベースIHSフェアプレイによると、世界の建造量は中韓が世界シェアの7~8割、日本全体のシェアは2013年の時点で約20.8%。日本勢の中でも今治造船グループが最大のシェア約5.7%を占め、上位の中国、韓国企業についで6位につけるという健闘ぶりだ。
80年代から始まった業界全体の構造不況、そして円高不況が常につきまとう中で、今治造船グループは非上場でありながらもなぜゆえ生き残り、黒字経営、無借金経営を貫き、世界と戦えるのか。そのキーワードは自助・公助・共助にあると言えよう。
船の部品は23000点以上にも及ぶが、今治造船の資材調達は驚愕の国内9割以上となっている。安価を求めて生産拠点を海外に移してしまう上場企業の製造業が多い中、あくまでも国内産にこだわる理由として、第一に高品質高付加価値の部品が作れるのは愛媛・今治地域であること、その結果オンタイムで全ての部品が調達可能となっていること、在庫を抱える必要がなく効率がいいこと等をあげる。企業としての自助努力は勿論のこと、その上で、地域全体の活性化を図ることを念頭に置いた独自の公助共助の路線を長年続けてきた、それが当たり前になっているという部分は大きい。
今治沖は海流の激しい場所である。船の安全航行のための「潮待ち」をする、その合間に船の修理を、ということから造船の地として選ばれたという経緯がある。その歴史を遡れば中世に瀬戸内海で活動した水軍にまで遡る。相互扶助の精神で何百年も支え合ってきた地域であるがゆえに、目先の一時的なコストでその結び付きを断ち切るのはナンセンスと言い切る。
造船には多額のファイナンスが必要となるが、地元の金融機関である伊予銀行がその役割を引き受けている。平成24年年度決算時点で、預金・貸出金とも16年連続増加は全国の銀行で伊予銀行のみ。日銀の異次元の量的緩和が実施されたところで、マネーストックが増加するだけでマネーサプライが低迷する中、今治造船グループや今治造船に船を発注する船主にはしっかり融資が実施され、日本の中では例外的に本来の信用創造がここでは見られる。余談ではあるが、伊予銀行の融資先の造船関係でこれまで倒産したところはないそうだ。
またこの地域には通称「今治オーナー」と呼ばれ、世界の海運王と並び称される船主軍団がいる。こうしたオーナーが今治造船に船を発注して、自身は船のレンタル料で収益を上げるという仕組みなのだが、この「今治オーナー」のほとんどが家族経営的な従業員数7~8名の零細企業である。2012年度の日本の中の外航船2848隻余りのうち約30%にあたる910隻を今治オーナーが所有しており、資産価値の合計で言えば2兆円を超えると言われる資産を超零細企業が保有し、世界を股にかけ収益を上げている。
地元の企業がその土地のポテンシャルを最大に生かして、自助・公助・共助の精神で支えながら発展してきた、それが今治である。どんなに厳しい経営環境下でも安易なコストカットの方向には流れず、むしろ流れるという発想すら持たず地域全体で歯を食いしばって乗り越えてきた、それが今や日本最大の海事都市までへの発展に繋がったと言えよう。海事関連企業の一大集積地としての今治の企業数は500社、1万人を超える雇用が生まれており、海運、造船、船用工業においていずれも日本トップクラスの実績は地域創生のまさにロールモデルである。今治市の消費税の還付金額は全国で見ても毎年上位に入っているが、域内調達、地元での設備投資や雇用の確保という形で還元されていると言えるだろうし、優遇税制分を存分に生かし、それを地域に還元してもなお十分にグローバルに活躍できる好例とも言えるだろう。
こうしたことは格差の解消にも通じる。都道府県別貧困率の上昇率の推移を見た場合に、1992年から2007年までの貧困率の上昇幅(ポイント)でみると、大阪(9.6)兵庫(8.3)秋田(7.5)などでは貧困率の急上昇が目立つが、愛媛(3. 8)は全国平均(5. 2)を下回っているような状況だ。地方・中小企業が増強すれば公助・共助が行き渡ることで域内の貧困にも直接、手を差し伸べられる、その証左と言えるのではなかろうか。
造船業は円安のメリットを最も享受する業界だ。しかし、同地域には原材料を輸入に依存する今治タオルもあり、現状の円安で経営環境は厳しい。今治造船株式会社、二宮克郎常勤監査役曰く、「同じ地域で苦しむ会社があるのに、自分達のメリットだけで円安を安易に喜ぶわけにはいかない」。
他業界、他業種、そして一般の国民生活へ長期的展望で大所高所からの判断をしているとは考えづらい超一流大企業がほとんどという中で、この自助・公助・共助の発想は稀有と言えよう。こうした健全なる思考を日本の超一流大企業を含めた経営者、そして国民が所与の事実として持つようになれば、日本が抱える経済問題のほとんどが解決できるのではないかと思う次第である。
税制から考える貧困と地方創生
(岩本 沙弓 大阪経済大学客員教授)
法人優遇税制
それでは消費税による税収はいったいどこにいってしまったのか。我が国の財務省が発表している一般会計税収、歳出総額の推移をみると歳入は減る一方で歳出が増加する、いわゆる「ワニの口が広がった状態」が続いている。そのワニの口を閉じるべく、2014年5%から8%への消費税増税、1995年の3%から5%への増税、あるいは1989年の消費税の導入の際も財政再建と社会保障費の捻出が喧伝されてきたのだが、先述の通り社会保障費はカットされ、財政再建の気配も一向にない。むしろ、導入・増税のたびに財政は悪化したのが消費税の25年の歴史でもある。消費税を導入・増税しながら、その一方で法人税と所得税の大幅な引き下げを実施するのであるから、社会保障費が捻出できるわけがない。消費税の税収は財政再建ではなく、法人税の基本税率は1989年の42.0%から25.5%まで消費税増税の度に引き下げられてきた以上、消費税は企業優遇のためであり、法人税と所得税の減税分の穴埋めに使われてきた実情が浮かび上がってくる。さらに、消費税は輸出企業への優遇策であることは税制の専門家の間では周知の事実だ。つまり法人税減税と消費税増税で一般国民と内需関連事業を疲弊させながら日本の輸出企業への重点策がこの四半世紀ひたすら採用されてきたと言えよう。
そもそもフランスで1954年に付加価値税が誕生した背景には自国の輸出企業へとフランス政府から補助金を渡したいという思惑があった。しかし、補助金の受け渡しはGATT(関税及び貿易に関する一般協定)では違反行為となる。そこで間接税による還付制度を例外規定として協定に織り込むことをフランスが半ば強引に要請し、それが認められたことで晴れて輸出企業への還付が可能となった。それ以降、1960年代後半から欧州各国で自国の輸出優位策としての付加価値税が積極的に導入されるようになった。ただし、この還付制度については還付ではなく実態は輸出企業へのリベート(補助金)であり、付加価値税は特定企業を優遇する不公平税制であるとして、アメリカは連邦国家として付加価値税の導入を見送り続けている。ちなみに、日本では消費税5%で消費税収は約13兆円であったが、うち約3兆円が還付金として輸出企業に渡され実際の税収は10兆円まで落ち込んでいた。単純計算をした場合、消費税10%では6兆円が還付金として輸出企業に渡されることになる。
税制による輸出企業への優遇措置の結果、国際競争力が増して海外市場で得た収益を、法人税などを通じて、あるいは国内の雇用を増やすなどして日本国民に積極的に還元してくれるのであれば、こうした措置の意味をなす。しかしながら、2年連続して過去最高の純利益を叩きだし、初の2兆円との見通しを発表した輸出大企業でさえも生産体制を海外から国内へと見直すことはないと公言したことが象徴するように、既に約7割が生産拠点を海外へと移転済みの上場している製造業が、国内での設備投資や雇用を積極的に増やす状況にはない。そしてGDP比における日本の輸出比率は例年10%程度であり、輸出依存度は各国比で見ても極めて低位にある。内需依存型の経済構造となっている日本の実情を勘案した上で、消費税増税+法人税減税という輸出優遇策が果たして日本全体にとってメリットがある税制なのか、還付の制度だけが形骸化しているのでないか。相対的貧困層からをも消費税を徴収し、それが法人に減税を通じて、あるいは輸出の還付を通じてグローバル企業へと渡されるだけのスキームになってはいまいか。今だからこそ検証分析する必要があろう。当該企業が内部留保をひたすら溜め込む一方で国内の雇用も賃金増も図らない、政府による所得の再分配も機能しないとなれば、格差社会、貧困化を進めた失われた日本経済の歳月が消費税の25年の歴史と重なるのも当然の帰結と言えよう。
(岩本 沙弓 大阪経済大学客員教授)
法人優遇税制
それでは消費税による税収はいったいどこにいってしまったのか。我が国の財務省が発表している一般会計税収、歳出総額の推移をみると歳入は減る一方で歳出が増加する、いわゆる「ワニの口が広がった状態」が続いている。そのワニの口を閉じるべく、2014年5%から8%への消費税増税、1995年の3%から5%への増税、あるいは1989年の消費税の導入の際も財政再建と社会保障費の捻出が喧伝されてきたのだが、先述の通り社会保障費はカットされ、財政再建の気配も一向にない。むしろ、導入・増税のたびに財政は悪化したのが消費税の25年の歴史でもある。消費税を導入・増税しながら、その一方で法人税と所得税の大幅な引き下げを実施するのであるから、社会保障費が捻出できるわけがない。消費税の税収は財政再建ではなく、法人税の基本税率は1989年の42.0%から25.5%まで消費税増税の度に引き下げられてきた以上、消費税は企業優遇のためであり、法人税と所得税の減税分の穴埋めに使われてきた実情が浮かび上がってくる。さらに、消費税は輸出企業への優遇策であることは税制の専門家の間では周知の事実だ。つまり法人税減税と消費税増税で一般国民と内需関連事業を疲弊させながら日本の輸出企業への重点策がこの四半世紀ひたすら採用されてきたと言えよう。
そもそもフランスで1954年に付加価値税が誕生した背景には自国の輸出企業へとフランス政府から補助金を渡したいという思惑があった。しかし、補助金の受け渡しはGATT(関税及び貿易に関する一般協定)では違反行為となる。そこで間接税による還付制度を例外規定として協定に織り込むことをフランスが半ば強引に要請し、それが認められたことで晴れて輸出企業への還付が可能となった。それ以降、1960年代後半から欧州各国で自国の輸出優位策としての付加価値税が積極的に導入されるようになった。ただし、この還付制度については還付ではなく実態は輸出企業へのリベート(補助金)であり、付加価値税は特定企業を優遇する不公平税制であるとして、アメリカは連邦国家として付加価値税の導入を見送り続けている。ちなみに、日本では消費税5%で消費税収は約13兆円であったが、うち約3兆円が還付金として輸出企業に渡され実際の税収は10兆円まで落ち込んでいた。単純計算をした場合、消費税10%では6兆円が還付金として輸出企業に渡されることになる。
税制による輸出企業への優遇措置の結果、国際競争力が増して海外市場で得た収益を、法人税などを通じて、あるいは国内の雇用を増やすなどして日本国民に積極的に還元してくれるのであれば、こうした措置の意味をなす。しかしながら、2年連続して過去最高の純利益を叩きだし、初の2兆円との見通しを発表した輸出大企業でさえも生産体制を海外から国内へと見直すことはないと公言したことが象徴するように、既に約7割が生産拠点を海外へと移転済みの上場している製造業が、国内での設備投資や雇用を積極的に増やす状況にはない。そしてGDP比における日本の輸出比率は例年10%程度であり、輸出依存度は各国比で見ても極めて低位にある。内需依存型の経済構造となっている日本の実情を勘案した上で、消費税増税+法人税減税という輸出優遇策が果たして日本全体にとってメリットがある税制なのか、還付の制度だけが形骸化しているのでないか。相対的貧困層からをも消費税を徴収し、それが法人に減税を通じて、あるいは輸出の還付を通じてグローバル企業へと渡されるだけのスキームになってはいまいか。今だからこそ検証分析する必要があろう。当該企業が内部留保をひたすら溜め込む一方で国内の雇用も賃金増も図らない、政府による所得の再分配も機能しないとなれば、格差社会、貧困化を進めた失われた日本経済の歳月が消費税の25年の歴史と重なるのも当然の帰結と言えよう。
税制から考える貧困と地方創生
(岩本沙弓 大阪経済大学客員教授)
再分配機能が発揮されない日本
貧困問題を持ち出したのは、日本では再分配機能が全く機能していないという忌々しき問題があるからだ。本来、政府の徴税は、政府を介して再分配を行うことで格差を解消するのが目的でもある。したがって通常は再分配前(社会保険料や税金を引かれる前の所得)と再分配後(税や社会保険料を払い、給付等を受け取った後の所得)で比較をすれば再分配後の貧困率が下がるのが当然だ。ところが、国際的にみて日本の場合、子どもの貧困が高い水準にあるだけでなく、日本だけが再分配後の貧困率の方が高くなるという、あってはならない現象を起こしている。つまり、税金を徴収し、社会保障費を配ったところ、子どもの貧困率が増加、格差が広がってしまっているのだ。これではいったい何のための税金なのか、社会保障費などの再分配が完全に麻痺していると言わざるを得ない。少子化に歯止めをと言いながら、実際には子どもを持つ世帯の負担が大きくなる矛盾がある以上、増税の前にまず政府がなすべきことはこの歪んだ再分配のような日本の制度そのものの見直しであろう。
日本の再分配はなぜ十分に機能しないのか。例えば消費税を考えた場合、消費者にとって消費税は物価高として負担が増える。敢えて物価とするのは、この税制は実質事業税という特質を持っているからだ。日本人のほとんどが消費税のいう偽称に騙されているが、消費者に消費税の納税義務が発生するとは消費税法にも書かれていない。消費者が負担をしない税金を消費税とするのはおかしな話で、納税義務はあくまでも事業者(輸出業以外)であるために海外では付加価値税との名称が一般的である。事業者が消費税分を転嫁する法的強制力もないのだが、大抵の販売価格は消費税分が値上げされ、それを購入する消費者は物価として負担するというのが厳密な消費税の姿になる。
その実質的な負担について、全ての世帯を毎月の収入の低い方から順番に並べた所得10分位階級で見た場合、第X10分位(最も所得の高い)世帯が実際に消費する金額は、消費税5%時代には年収のうちの一部の6割程度との試算がある。残りの4割は貯蓄などに回すため消費税の負担は実際の収入6割に対して5%を払うこととなる。その結果、年収全体に対する消費税の比率は、消費税率5%よりもずっと低くなり、実質的な第X10分位の消費税負担率は1.9%しかない。対して、第Ⅰ10分位(所得の最も低い)世帯では年収のほとんどを消費に回さなければならないため、実収入に占める消費税の負担割合は4.04%以上となる。最低所得層は最高所得層と比べて2倍以上の負担率で消費税を納めている、消費税が逆進的と言われる所以である。
消費税が5%から10%に引き上げられると、第Ⅰ10分位の負担率は8.08%まで上がるのに対して第X10分位の負担率は3.81%に留まる。消費税率が高くなればなるほど、低所得者の負担率が上昇することも問題だが、高所得者と低所得者の負担率の差も、5%でその差2.14%だったものが、10%で4.27%まで拡大することも問題だろう。すなわち、消費税の税率は上がれば上がるほど、格差を生み出すことに繋がる。
5%から8%への消費税増税は社会保障費捻出のためと謳われたわけだが、2014年12月の衆院選が終わった直後から、政府方針として介護報酬の9年ぶりの減額や、8%に引き上げた際に子育て世帯支援措置として採用された一万円の給付金について2015年度の休止を固めたことが伝わる。理由として社会保障費用抑制や財源難をあげるが、これでは3%の消費税増税分は全く福祉に充当されていない。一般国民にとっては負担が増えるだけで再分配が全く機能していない状況だ。突き詰めればこうしたことが消費税の歴史25年間の間に累々となされた結果、社会的な弱者の負担が増え、中間層から貧困層への転落が発生してきたと言えよう。
(岩本沙弓 大阪経済大学客員教授)
再分配機能が発揮されない日本
貧困問題を持ち出したのは、日本では再分配機能が全く機能していないという忌々しき問題があるからだ。本来、政府の徴税は、政府を介して再分配を行うことで格差を解消するのが目的でもある。したがって通常は再分配前(社会保険料や税金を引かれる前の所得)と再分配後(税や社会保険料を払い、給付等を受け取った後の所得)で比較をすれば再分配後の貧困率が下がるのが当然だ。ところが、国際的にみて日本の場合、子どもの貧困が高い水準にあるだけでなく、日本だけが再分配後の貧困率の方が高くなるという、あってはならない現象を起こしている。つまり、税金を徴収し、社会保障費を配ったところ、子どもの貧困率が増加、格差が広がってしまっているのだ。これではいったい何のための税金なのか、社会保障費などの再分配が完全に麻痺していると言わざるを得ない。少子化に歯止めをと言いながら、実際には子どもを持つ世帯の負担が大きくなる矛盾がある以上、増税の前にまず政府がなすべきことはこの歪んだ再分配のような日本の制度そのものの見直しであろう。
日本の再分配はなぜ十分に機能しないのか。例えば消費税を考えた場合、消費者にとって消費税は物価高として負担が増える。敢えて物価とするのは、この税制は実質事業税という特質を持っているからだ。日本人のほとんどが消費税のいう偽称に騙されているが、消費者に消費税の納税義務が発生するとは消費税法にも書かれていない。消費者が負担をしない税金を消費税とするのはおかしな話で、納税義務はあくまでも事業者(輸出業以外)であるために海外では付加価値税との名称が一般的である。事業者が消費税分を転嫁する法的強制力もないのだが、大抵の販売価格は消費税分が値上げされ、それを購入する消費者は物価として負担するというのが厳密な消費税の姿になる。
その実質的な負担について、全ての世帯を毎月の収入の低い方から順番に並べた所得10分位階級で見た場合、第X10分位(最も所得の高い)世帯が実際に消費する金額は、消費税5%時代には年収のうちの一部の6割程度との試算がある。残りの4割は貯蓄などに回すため消費税の負担は実際の収入6割に対して5%を払うこととなる。その結果、年収全体に対する消費税の比率は、消費税率5%よりもずっと低くなり、実質的な第X10分位の消費税負担率は1.9%しかない。対して、第Ⅰ10分位(所得の最も低い)世帯では年収のほとんどを消費に回さなければならないため、実収入に占める消費税の負担割合は4.04%以上となる。最低所得層は最高所得層と比べて2倍以上の負担率で消費税を納めている、消費税が逆進的と言われる所以である。
消費税が5%から10%に引き上げられると、第Ⅰ10分位の負担率は8.08%まで上がるのに対して第X10分位の負担率は3.81%に留まる。消費税率が高くなればなるほど、低所得者の負担率が上昇することも問題だが、高所得者と低所得者の負担率の差も、5%でその差2.14%だったものが、10%で4.27%まで拡大することも問題だろう。すなわち、消費税の税率は上がれば上がるほど、格差を生み出すことに繋がる。
5%から8%への消費税増税は社会保障費捻出のためと謳われたわけだが、2014年12月の衆院選が終わった直後から、政府方針として介護報酬の9年ぶりの減額や、8%に引き上げた際に子育て世帯支援措置として採用された一万円の給付金について2015年度の休止を固めたことが伝わる。理由として社会保障費用抑制や財源難をあげるが、これでは3%の消費税増税分は全く福祉に充当されていない。一般国民にとっては負担が増えるだけで再分配が全く機能していない状況だ。突き詰めればこうしたことが消費税の歴史25年間の間に累々となされた結果、社会的な弱者の負担が増え、中間層から貧困層への転落が発生してきたと言えよう。