(連合総研主任研究員 江森孝至)
今年は、春闘が始まって60回目の節目の春闘である。
企業別に組織された日本の労働組合が、ともすれば企業間競争を過度に意識し、企業内・ミクロの発想になりがちな弱点を克服するために、同じ要求を掲げ、同時期に同水準の妥結をめざして共闘して交渉するという、企業・産業を超えて賃上げをめざす春闘方式が編み出された。そして、高度成長を背景に産業別の共闘を中心にしてマクロの要求を掲げて全体の賃金の底上げをはかってきた。
日本の労働組合は、春闘を通じて企業別労働組合の弱点の克服に努めながら、「分配」で労働者の生活を向上させ、日本社会の健全な発展に寄与するという社会的な役割を発揮してきた。
1月12日、政府は「平成27年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度」を閣議了解した。そのなかで、今年度と来年度の国民総生産(GDP)の見通しを示している。実質成長率は今年度が前年度より0.5%減になり、リーマン・ショック後の2009年度に2.0%減になって以来5年ぶりのマイナスである。政府は今年度の実質成長率を当初は1.4%増と予想していたが、「個人消費が予想以上に弱かった」ほか、住宅購入の落ち込みが目立ったなかで、当初予測を下方修正した。昨年4月に消費税が上がり、円安で物価が上がった一方、GDPの6割を占める個人消費、その個人消費の動向を決定づけている賃金の伸びが追いつかなかったからである。また、今年度の消費者物価は3.2%増で見込んでいる。
昨年12月、「経済の好循環実現に向けた政労使会議」で確認文書が取り交わされた。そのなかで、「政府の環境整備の取り組みの下、経済界は、賃金の引き上げに向けた最大限の努力を図るとともに、取引企業の仕入れ価格の上昇等を踏まえた価格転嫁や支援・協力について総合的に取り組む」ことを確認している。
1997年以降、私たちの賃金は下がり続け、労働分配率も低下傾向が続いている。一方で、法人企業の狭義の内部留保は1997年度の80兆円から2012年度には304兆円に大幅に増加した。日本社会の分配、格差社会の歪みを象徴している。円安や株高等で一部企業や富裕層は潤ったが、庶民へのトリクルダウンは起きていない。また、政府は昨年の復興特別法人税の前倒し廃止に続いて、今春闘を前に、経済界に法人実効税率の引き下げを約束している。
企業の賃上げ原資はある。格差社会のなかで、労働組合が「分配」の視点をしっかりと持って、企業がため込んだ内部留保を吐き出させて、消費性向が高い非正規労働者や中小企業で働く労働者を含めた賃上げにつなげる必要がある。グループ経営と言いながら親会社が一人儲けていないか、消費税の引き上げ分や原材料の値上げ分が取引先企業との納入価格交渉で適正に転嫁できているのか、非正規労働者の労働条件が不当に抑制されていないか。中小企業や非正規労働者を含めた全体の底上げにつなげる春闘にしなければ、デフレからの脱却はできないし、アベノミクスは失速する。
昨年、“ベアなし春闘”から“ベア春闘”に舵を切って、今年で2回目の春闘だ。今春闘は“ベア春闘”を定着させる役割がある。過年度物価上昇分も取り戻せない春闘が続けば、労働者の生活は苦しくなる一方で、分配の歪みはさらに拡大し、労働組合の社会的な存在意義も問われる。中小企業や非正規労働者を意識した春闘を構築してこそ、分配の歪みと格差を是正し、経済の好循環に結びつけるという社会性が発揮できる。とりわけ春闘相場への影響が大きく、また、グループ企業の総帥でもある大手企業労使の役割は大きい。
近年、職務給が広がっている。ベアを勝ち取っても基本給ボックスの上限額を修正しなければ、賃金の頭打ちを増やすだけだ。労使交渉を強化し、勝ち取ったベアを個別賃金の引き上げにつなげなければならない。
「賃上げで動く日本経済」にしていけるかどうか、今春闘は日本社会の分水嶺の春闘だ。

