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(仮)アホを自覚し努力を続ける!

アウグスティヌスの格言「己の実力が不充分であることを知る事が己の実力を充実させる」

介護リスクと離職可能性-企業支援のあり方を考える-
(西久保 浩二 山梨大学生命環境学部教授)


1.迫る介護リスク

 平成26年10月の「介護保険事業状況報告」によれば、介護保険制度における要介護(要支援)認定者数は600.2万人となり遂に600万人の大台に達した。

 介護保険施行の平成12年には、256万人であった認定者が14年を経て2.3倍となった。

 こうして要介護者となる高齢層が確実に増大する中で、働く子世代が縮小している。こちらも周知のとおり、今後、生産年齢人口の減少に伴い、老親介護を支える現役労働者世代は確実に縮小している。要介護者の増大と同時に、それを支える現役労働者が確実に減少してゆく、この背反関係が今後、仕事と介護との両立問題の加速度的な拡がりとその深刻さを増してゆくことを示唆している。


2.リスク特性比較...育児と介護

 職場における「介護支援」は、先行して両立問題として取り組まれた「育児支援」としばしば比較されるが、そのリスク特性には大きな差異がある。「育児」と同様の発想、視点からの対応では「介護」に対する有効な支援は困難である。

 両者のリスク特性としての相違に着目し、改めて比較し整理してみよう。

 第一に、育児はかなり確定的な「有期」の問題であり、一定期間の支援として想定することができる。一方で、「介護」は、最初に要介護認定を受けた時点あたりから始まるが、その終結時点が容易に見通せない。つまり、支援する側からの時間的予見が難しい。平均値としては浜島(2006)では、平均2.7年、松浦(2014)では3.4年という期間が測定されているが、その分散は大きいだろう。この時間的な「予測困難性」は費用負担とも連動することはいうまでもない。

 第二は、「同時多発性」である。「育児」は直列型を前提として考えられる。つまり、第一子の出産、育児が一段落し、その後第二子と続き、多くの出産ケースでは一定の間隔がある。一方、介護は、自身の両親、配偶者の両親も含めて、同時多発的となる危険性を有している。つまり、並列的に複数の要介護者を抱える可能性がある。複数の重度の要介護者を抱えることとなれば、仕事との両立の難易度が飛躍的に高まることが予想される。

 第三に、「育児」は、出産直後の乳幼児の段階での集中的負荷が大きい時期から、生育とともに負担が軽減する。保育施設に預けられる頃には、両立上の負担としてかなり軽減される。一方で、「介護」では、症状の悪化や認知症の発症など、負荷が時間経過と共に重くなる「リスク逓増型」であり、「負荷逓増性」となる。

 第四の特性が最も決定的な差異ともいえるのだが、支援対象となる「従業員の年齢、そして社内での職位」等の違いである。出産・育児では基本的に女性従業員が中心で、かつ年齢層も比較的若い層である。このため組織内での中枢的な管理職であるケースが比較的少ない。つまり、休職等による業務運営上の悪影響がそれほど深刻なものではなく、派遣社員やOB社員の非正社員採用などによる代替要員の確保の可能性も比較的容易である。しかし、「介護」では、当事者となる従業員は40歳代後半から50歳代まであたりが、その中心層となり、上位管理職に就いているケースが多く、社内での業務上、果たすべき役割が大きく、業績責任を負っていることが少なくない。また、部下もおり、彼らに対する指導、育成責任なども有している。要するに、各部門の中核人材として、部門内でリーダーシップを発揮し、企業を支える立場にいる可能性が高い。したがって、仮に、短期的な休職となっても、その代替要員の確保も難しく、進行中のプロジェクトの成否などにも直接的に関わってくる。結果的に、企業としてのダメージが、「育児」で休職する若年層に比較して大きくなる。この点は、当然、当人も認識しており、老親介護に直面して苦悩していること自体を、企業側に伝え、支援を求めることを躊躇させる。いわゆる「カミングアウト問題」である。これが事態をさらに深刻化させる。

 第五の特性は、要介護者との「空間的な位置関係と距離」の問題である。「育児」の場合には、説明を要しないであろうが、乳幼児とその育児の当事者となる女性従業員は、同居しており、移動等の問題が生じる余地は少ない。しかし、「介護」のケースではしばしば、「遠隔地介護」が問題となる。現在の大都市圏で勤務する中高年層の管理職の多くは、高卒後、大卒後、あるいはそれ以前の入学時点に地方社会から社会移動によって両親と別居状態となっているケースも多いため、要介護者となった老親宅との地理的な距離が離れており、移動コスト(時間的、経済的、肉体負荷的)が大きな負担となる。

 第六は「複雑な当事者性」である。つまり、主たる当事者、補助者等からなる体制上の特性がある。誰が主たる担い手となり、誰が補助者となるか、要介護者に何人の家族、親族が関与するか、費用分担は、といった点である。「育児」は、現状では、母親が主たる担い手となって、父親が補助的に介入するケースが基本形で、そこにいずれかの両親が同居、近居する場合には、補助者、支援者として協力することになる。一方、「介護」のケースでは、かなり複雑で、より多様な形態・体制が発生する。まず、要介護者が従業員当人の老親か、配偶者の老親か、によって変わってくる。また、要介護者自身の配偶者の有無と健常であるか。当人及び配偶者に兄弟姉妹がいるか。長男長女か。また、それらの当人と兄弟姉妹と、要介護者との同別居、住居・施設との距離がどうなっているか、等々によって、主たる当事者が誰になるか、また複数による分担型か、など多様となる。この当事者関係の複雑さ、多様性が、企業支援を困難なものとする要因ともなる。

 以上、「育児」と「介護」との両立リスクという観点から特性比較すると、「介護」は当事者の負荷の重さ、多様性に大きな差異があり、育児支援の延長線ではなく、リスク特性を十分に認識した上での対応が必要であることがかわる。
「仕事と介護の両立」支援に向けて
(連合総研副所長 小島 茂)


 介護保険が2000年4月にスタートして、既に15年が経つ。その2000年当時、親や配偶者等の介護のために退職せざるを得ない介護離職者は、年間10万人ほどいたが、現在でも年間10万人程度と、人数的にはほとんど変わっていない。

 これをどう評価すべきか。介護保険制度は、介護離職の防止には役立っていないと見るのか。あるいは、要介護認定者が15年で約3倍になるなかで、介護離職者が10万人程度に止まっているので、一定程度、離職防止に役立っていると見るのか。この評価については、詳しい検証が必要であるが、今後、要介護者の増大に伴い介護離職者の数が増加する可能性は高い。


増大する男性介護離職者

 現在、介護をしながら働く人は、総務省「就業構造基本調査」によれば約290万人(全就業者の5%程度)であるが、要介護の家族がいることを会社に伝えていない「隠れ介護者」を含めると1300万人(全就業者の20%)になる推計もある(日経ビジネス2014.9.22)。実際、電機連合の「生活実態調査(2013年度)」でも、家族に要介護者がいる組合員は約1割で、50歳以上では3割近くになる。この結果から、夫婦共働きとして単純に2倍すれば、約2割の人が介護をしながら仕事をしていることになる。

 なお、介護離職者の男女の比率では、2000年当時は、女性が9割で男性が1割であったが、現在では、女性8割で男性2割(約2万人)と、男性の比率が高まっている。その背景としては、家族形態の大きな変化(共働き世帯、核家族、長男・長女、男性未婚者の増加等)がある。そのため、かつて、介護の担い手は「嫁」「娘」と言われていたが、現在では、「夫」「息子」が妻や老親の介護をする状況が増えている。


在宅介護の厳しい実態

 また、連合の「要介護者を介護する人の実態調査」報告(2015年1月)によれば、現在の介護保険サービスでは在宅介護を「続けられない」とする人が3割おり、認知症が重い場合は6割強にもなる。在宅介護に<ストレスを感じる>人は8割に達し、<憎しみを感じている>人も3割を超え、<虐待経験がある>人も1割程度いるなど厳しい在宅介護の現実が示されている。

 さらに、電機連合「仕事と家庭の両立支援に関する調査(2013年度)」によれば、両立支援のための介護休暇制度、短時間勤務制度等の期間延長など制度の整備・拡充は進んでいるものの、支援制度の利用者は極めて少ないという結果になっている。そのため、両立支援のための要望としては、「職場の理解」がトップである。これは、育児と違って、対象者が40歳代から50歳代と責任のある立場にあり、介護のための休暇や短時間勤務の利用を職場で言い出せない雰囲気があるためであろう。

 一方、ダイヤ高齢社会研究財団の「超高齢社会における従業員の働き方と企業の対応に関する調査」結果(2014年3月)をもとにした西久保浩二山梨大学教授の離職要因分析によれば、職場の両立支援策だけでは、離職防止の効果がほとんどなく、唯一効果があるのは、「本人所得の高さ」である。所得が高ければ、自己負担でのヘルパー利用、有料老人ホーム等への入居が可能となり、また、高所得者ほど離職による所得喪失のリスクを強く認識しているためである。

 しかし、最悪の介護離職までいかなくとも、介護をしながら仕事を続ける場合は、精神的、肉体的にもストレスを抱え、結果的に仕事の能率が低下することになり、本人にとっても企業にとっても大きなマイナスとなる。


両立支援に向けた労働組合の取り組み

 この「仕事と介護の両立」、介護離職問題は、ほとんどの人が、いずれは直面せざるを得ない大きな問題である。そのため、「職場の支援」+「在宅介護サービス」+「地域の支え合い」の適切な利用が必要であり、労働組合の取り組みも重要になる。

 職場における両立支援では、介護者への職場の理解、相談窓口の設置、両立支援制度の整備・充実、制度の利用促進の環境整備に向けた労使の取り組みが必要である。在宅介護サービスとしては、地域密着型サービス(定期巡回・随時対応型訪問、小規模多機能型等)や家族介護者への支援策の充実、「仕事と介護の両立」可能なケアプラン作成など。さらに、地域での見守り・安否確認、介護者支援、企業・労働組合の地域貢献活動、そして、これら地域活動を可能とするために長時間労働の是正など労働組合の職場・地域での取り組みが必要になる。

 2014年版中小企業白書(第1章第3節)によれば、1990年代の半ば以降、中小企業が原材料や中間財など中間投入品の仕入れ価格を自社製品の販売価格に転嫁できる度合、すなわち価格転嫁力が一貫して低下している。白書では企業の価格転嫁力の変化を「付加価値デフレータ」という指標を作成して観察する。「付加価値デフレータ」は企業の生み出す付加価値の「価格」と想定される。付加価値は売上高-中間投入であるから、販売数量と仕入数量の増減関係を一定と仮定すれば、「付加価値デフレータ」の変化は「販売価格要因」と「仕入価格要因」に依存することとなる(図表注記参照)。

 中小企業の価格転嫁力は80年代央まで概ね上昇傾向にあったが、90年代後半には仕入価格の低下以上に販売価格が低下したため、また2000年代半ば以降は仕入価格の上昇に販売価格の上昇が追い付かないことによって低下した。この間、大企業の価格転嫁力に大きな変化はなく、価格転嫁力の規模間格差が拡大している(下図)。換言すれば、90年代を転期として中小企業の価格転嫁力に構造的変化が生じているのである。

 90年代は利潤率の低下とその要因が論議を呼んだ時代であり、90年代央を境に労働分配率の低下傾向が生じた。その同じ時期に中小企業の価格転嫁力も低下し始めたことに留意すべきである。そして価格転嫁力の低下は企業収益をも圧迫している。白書は収益力の変化を「価格転嫁力の変化」と「実質労働生産性の変化」という二要因に分解している。端的にいえば、中小企業は殆どの期間において大企業を上回る実質労働生産性の伸びを記録しているが、90年代を境として価格転嫁力の低下が実質労働生産性の上昇を相殺することで収益力が失われている。白書(同第4節)は実質労働生産性の規模間格差と変動要因も分析している。中小企業の実質労働生産性が大企業を上回ったのは、90年代半ばまでは実質資本装備率(設備投資)の高い伸びに支えられ、2000年代央以降は製品の高度化など実質付加価値率の上昇によるものである。

 以上の結果が示すところは、賃金の増加を軸とした経済の好循環を実現するに当たっては、高い生産性を有し、日本経済の基盤を支えている中小企業が生み出した付加価値の相当大きな部分が大企業に移転してしまい、中小企業の収益力を圧迫して結果的に中小企業労働者の賃金水準を押し下げている現状に抜本的な改革のメスを入れることが不可欠になっているということである。