これでは朝令暮改のそしりを免れない | (仮)アホを自覚し努力を続ける!

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アウグスティヌスの格言「己の実力が不充分であることを知る事が己の実力を充実させる」

(連合総研専務理事 菅家 功)


 安倍首相が消費税率10%への再引き上げの先送りと衆議院解散を表明したのは昨年11月18日のことだった。首相が表明した消費税率10%への引き上げ時期は、去る3月31日に成立した「所得税法等の一部を改正する法律」により2017年4月1日で確定した。

 そもそも、今回の消費税率の引き上げは民主党政権時に開始され、最終的には民主・自民・公明の3党合意により実現した「社会保障と税の一体改革」によるものである。この一体改革の目的について、政府広報は次のように記している。「高齢化が進んだ社会でも、世代を問わず一人ひとりが安心して暮らせる社会を実現するために、消費税率の引き上げで得られた財源で、全世代を対象とする社会保障の充実をはかります。」

 具体的には、消費税率を5%から8%、そして10%へと段階的に引き上げて社会保障の安定財源を確保し、将来世代への負担の先送りを減らして社会保障の持続可能性を高めることにつながるものとされた。つまり、消費税率の引き上げは、あくまで社会保障の持続可能性を高めるためのものであることが強調されているのである。

 そして、消費税率引き上げによる財源のうち1%分、2.8兆円は社会保障の充実に充てることとされ、子ども・子育てに0.7兆円、低所得者の年金加算に0.6兆円、医療・介護の充実に1.6兆円を充てることになっている。これらの国民への約束とも言える社会保障の充実に向けた施策がきちんと行われているのかの検証を行っていくことが重要であるが、しかし一方で、こうした一体改革の理念と目的を忘れ去ってしまったのかと見紛うような議論が、いま政権内部で正々堂々と進められている。

 解散・総選挙の直後の12月27日の経済財政諮問会議において、「経済再生と両立する2020年度の財政健全化の達成に向けた具体的な計画」の策定を今夏の「骨太方針」で取りまとめるべく議論を進めるという、注目すべき提案がなされた。デフレ脱却・経済再生、歳出改革、歳入改革の3つの柱で財政健全化を進め、このうち歳出改革では「特に支出規模の大きな社会保障及び地方財政について重点的に取り組む」とされたのである。

 2月12日の経済財政諮問会議では、内閣府から「中長期の経済財政に関する試算」が提出され、2015年度の国・地方の基礎的財政収支(PB)の対GDP比は▲3.3%程度となり、2020年度の国・地方のPBの対GDP比は経済再生ケースの場合で▲1.6%程度、約9.4兆円の赤字となることが示された。これらを受けて、民間議員を中心に国・地方のPB対GDP比を2020年度までの5年間で3.3%改善するための論点整理が今後、進められることになっている。

 こうした経済財政諮問会議の議論と軌を一にするように、財政制度等審議会で2020年度PB対GDP比の黒字化に向けた議論が繰り広げられている。財政審委員の土居丈朗慶大教授は、総合研究開発機構(NIRA)の共同提言において、財政健全化に向けて基礎的財政収支黒字化の目標を断固堅持する、黒字化達成に向けて歳出削減と増税による税収確保を一体として進める、社会保障支出削減によって3.4~5.5兆円の赤字削減が可能であり、なお不足する分は消費税の更なる引き上げが必要である、などと主張している。

 2015年度政府予算では、消費税増収分8.2兆円のうち「社会保障と税の一体改革」で措置することとされていた社会保障の充実に1.35兆円が充当される。これには子ども・子育て支援新制度の4月実施が含まれており、社会保障を充実・安定化させるために消費税率を引き上げる一体改革はその緒についたにすぎない。しかも消費増税が社会保障の充実に充てられている実感が乏しいとの声が聞かれるなかにあって、財政再建のために社会保障を削減するなどといった倒錯した論理は、到底、国民に受け入れられるものではない。これでは朝令暮改のそしりを免れない。