介護リスクと離職可能性-企業支援のあり方を考える-(4) | (仮)アホを自覚し努力を続ける!

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アウグスティヌスの格言「己の実力が不充分であることを知る事が己の実力を充実させる」

西久保 浩二(山梨大学生命環境学部教授)



4. 介護リスクによる離職可能性


 平成25年6月に、(公財)ダイヤ高齢社会研究財団の研究プロジェクトにおいてわが国を代表する企業グループに属する大企業15社の従業員層4,423人(うち有効回答数4,320人)に、質問紙調査とインターネット調査を併用したアンケート調査を行った。


 この調査では老親の介護を原因とする離職については、いずれも現在、就業中であるが、従業員自身が老親介護の深刻化とともに「離職の可能性があるか」という点について自覚的、主観的評価を求めた。「可能性は大きい」から「可能性は小さい」までの5つの段階的表現を選択肢で示し回答を得た。この回答を総合した結果、全標本の11.4%、また要介護対象者が既に全くいない層を除いた標本の12.5%が「可能性は大きい」と回答した。約1割の労働者が自らの離職可能性を自覚していることになる。


 この回答結果を、さらに「性別」「介護の担い手(予測)」「(介護対象者)本人住居との距離」などの他の関連変数とのクロス分析したものが図表4である。





 まず、男女別で大きな回答差があることが注目された。男性の7.1%に対して、女性では26.3%と4倍近い回答率の差異が現れた。この点は、雇用動向調査(2011年)による介護を理由とする離職者数の結果とも符号する。介護離職の危険性が女性において、より高いことが改めて確認された。


 次に、介護発生時の担い手との関連から、離職可能性への反応をみると、当然であるが「本人夫婦」と想定している層で19.6%と高くなる。この点は池田(2010)でも「主介護者となる可能性が高く、 仕事の負担も重いと予想される正規雇用の女性での離職可能性が高いこと」が指摘されている。


 もう一点、注目したい点は、被介護者と担い手である労働者家族との距離関係である。結果として、離職可能性が最も高くなったのは「同居」で26.6%と他の「近居」「遠居」と比較して突出して高い。これは、まさに介護労働の当事者となってしまうためであり、肉体的負荷、時間的切迫性が高まるためと考えられる。前田(1998)は、「育児期には親との同居が両立を助けることになるが、同居している親が75歳以上になると、逆に両立性を阻害する」という分析結果を示し、 親との同居によって継続就業が実現できた女性労働者が、 一転して同居親の介護のために就業を断念する可能性は高いという皮肉な状況となることを指摘している。当調査でも、この傾向があることが再確認されたわけである。


 その後、同財団と明治安田生活福祉研究所が引き続き、介護離職に関する踏み込んだ大規模調査を行い、興味深い実態が数多く採取されたが、そのひとつをご紹介したい。


 それは、介護開始時期と離職時期との関係である。介護理由による「転職層」「離職して介護専念層(無業)」の各男女層での、その期間をみると、いずれの層でも介護開始から離職まで「1年以内」で離職していることが明らかにされた。これは企業にとって注目すべき結果といえる。貴重な人材喪失のリスクを防ぐための時間が決して長いものではないことを示唆しているからである。