我輩は子猫である。
名前は、「ハッピー」である。
ハッピーに決まるまでは、猫ちゃん、ミュー、ラッキー、etc.あったのだが、
「ハッピー」に決まった理由は、我輩の悲しい生い立ち(なんせ子猫なのでまだ短いが)をお話しなくてはならない。
ふと、気がつくと、暗くて、臭くて、身動きできなかった。
ここは・・どこだろう?
ガサ・・ドサッ・・・・。と物音がする。
カツ カツ カツ・・・。ドシ ドシ ドシ・・・。人の足音だろうか??
ガサガサガサ・・・。パタパタパタ・・・・。風が吹いて水滴の落ちる音だろうか?
カツカツカツ・・。ドサ・・・。また誰か人が来たみたいだ。
「にゃ~」と鳴いて見たが、足音らしきものは遠ざかって行った。
バタバタバタ・・・。また誰か来たみたいだ。
「にゃ~・・にゃ~・・」と、鳴いてみた。
ガサガサ・・・ガサガサ・・・。と物音がする。
もう一度、もうちょっと頑張って出来るだけ大きな声で「にゃ~」と鳴いてみた。
近くで、ガサガサッと、音がした。
すると、突然周りが明るくなった。そして、人の手に抱きかかえられた。
「可愛そうに、生ごみと一緒に生きたまま捨てるなんて・・・。なんてひどいことをする人がいるの!」とその人は言った。
なんと我輩は、生ごみと一緒に生きたまま捨てられていたのだ!
ゴミ袋の外は、雨と風が強かった、「台風」が来ていると言う。
この人が見つけてくれなかったら、我輩は生ごみもろとも生きたまま焼き殺されていただろう。
全身が震えて止まらない。目も半分しか空いていないようだ。
「猫ちゃん。可愛そうに。もう大丈夫だからね。あんな小さな鳴き声。いつもなら聞き逃すだろうに・・・。気がついて本当によかった。」
優しいお姉さん(たぶん)は、我輩を暖かいお風呂に入れてくれ、石鹸で洗ってくれた。
ふかふかタオルでくるまれると、また、全身が震え出した。体が衰弱しているのだ。足にも力が入らない。
「さぁ・・・。まずこれを飲んで。」
なんかしょっぱい感じの水をスプレーで口の中にしゅっと入れられた。んん・・・初めての味だけど、喉が気持ちよくなった気がする。
「ミネラルいっぱいのひょうたん水よ。きっと元気になるわ。」
そう言って、今度は、体全体を軽くマッサージするようにその水をつけてくれた。
「猫ちゃん。元気になってね。」
お姉さんの手は気持ち良かった。
さすられていると、体の血が巡ってくるようだ。段々ぽかぽかして来た。
「にゃ~」気持ちよくなってきたよ。とつたえたつもりだ。
「声が少し出るようになってきたわね。ミルクは飲むかしら?」
指先にミルクをつけて、口元に持ってきてくれたが、何だか口の周りも麻痺したみたいで、ミルクを舐める事が出来ない。
しかたなく、お姉さんは口の周りにミルクをぬりつつけるようにした。
口の周りについたミルクが舌に触れた。
「にゃ~」んん美味しいよ。
「美味しかった?少しずつあげましょうね。」
こうして、お姉さんは我輩に、ひょうたん水とミルクを根気よく与えてくれた。
家の外は、台風の雨と風が強くなって、ビュービュー、ガタガタ、ゴーゴーいっている。
ふと気がつくと、真っ暗で、
「にゃ~」怖くなって鳴いた。
「猫ちゃん、少し声が元気になって来たわね。大丈夫よ。心配しないでねんねしなさい。」
お姉さんにさすってもらって、気持ちよくなって眠った。
台風も去って、2日ほどたっただろうか、ミルクも少しずつこぼさずに飲めるようになって、足にも力が入るようになってきた、目もしっかり開いて綺麗なお姉さん(たぶん)の顔もよく見える。
「大分元気になって来たわね。後は体力をつけて、猫ちゃんを飼ってくれる人を見つけなくちゃね。ごめんね。残念だけど、家では飼ってあげられないの。」
「にゃ~」我輩もお姉さんと一緒にいられなくて残念である。
翌日、目を覚ますと、女の子が我輩を見ていた。しばらくして、男の子の顔も2つ。
「にゃ~」なんだ?なんだ?
「かわいい~。ねえお母さん。この猫かっていい??」
「名前はぁ・・・ミュー。」「んと、ラッキー。」「ハッピー。」「やっぱりミューがいいかな?」
「お母さんの好きな毛の色をしているわね。お母さんも飼ってんあげたいけど、お父さんにお聞きしなくてはね」
「そうだね。お父さんは猫の毛のアレルギーだものね。」と男の子が言った。
お父さんが猫アレルギーじゃ我輩は飼えないだろう?
と思っていたら、次の日、我輩はそのお家に迎えられた。
どうやら、このお宅はお母さんのほうが強いらしい。
優しいお姉さんともお別れだ。
あの台風の日、お姉さんに見つけてもらえなかったら、今頃はこの世にいなかっただろう。お姉さんありがとう。
なっちゃんという女の子とせい君と言う男の子はよく我輩をとりあいこして喧嘩する。
その時は、ちょっと我輩も痛い思いをする。
我輩の名前も皆がそれぞれ好きなように呼んでいたが、今はハッピーで落ち着いたようだ。
まずは、その家のご主人に気に入られなくてはと、寝る時は猫アレルギーのお父さんの枕元で寝ていたが、気がつくと、隣のお母さんの首元に移動されていた。
おトイレも覚えた。覚えるまでには、なっちゃんのお兄ちゃんのたい君の手の上に大きいほうをてしまった事もある。でも、たい君は、優しい。笑って許してくれた。
お母さんは、我輩のことをよく分かってくれていて、優しく抱いてくれて、ミルクやご飯をくれる。
幸いな事に、お父さんの猫アレルギーは、出ていないようだ。きっと我輩と相性がいいのだろう。最近はお父さんの方から声をかけてくれる。
ゴミ袋から救われた我輩は、楽しい家族に囲まれてとても「ハッピー」な子猫なのである。