伊藤栄樹『検事総長の回想』(朝日文庫 1992年)読了。
『秋霜烈日―検事総長の回想』(朝日新聞社 1988年)を改題したものが本書である。
以前チャンネルくららでもチラッと紹介されていたので、これは読まねばと思い、読んでみた。
非常に読みやすく、また著者が法務・検察の人間として関わってきた事件も多く知ることができた。
本書で挙げられている事件は、造船疑獄事件、武装ギャング団事件、船上密室殺人事件、海上保安庁汚職事件、日興連汚職事件、テーブル・ファイヤー事件、警視庁防犯課汚職事件、売春汚職事件、東洋精糖事件、富山水道汚職事件、鮎川派選挙違反事件、「松本楼」放火事件、日活ロマン・ポルノ事件、トイレット・ペーパー事件、連続企業爆破事件、ハイジャック事件、ダグラス・グラマン事件、ロッキード事件…
どれも非常に興味深い事件である。
また、本書に登場する法務・検察関係者も、塾長の『検証 検察庁の近現代史』を読んでいれば「あ、あの人だ」という、ある種馴染みのある名前が結構出てくる。
佐藤藤佐、河井信太郎、岸本義広、馬場義続…
これらの人物がどういう人物か知りたければ、是非『検証 検察庁の近現代史』を読むことをおすすめする。
それから、上で挙げた事件の中では、特にハイジャック事件(ダッカ日航機ハイジャック事件)に関しての回想が、少し考えさせられるところがあった。
「福田総理や園田官房長官と向き合って、同じ皿のサンドイッチをつまみながら、あくまで犯人側の要求に応ずべきでないとの立場で頑張ったものである。」(p115)
「この種の事件に対しては、平素からこれに対処する機構をつくっておき、事件が発生したらあくまで冷静に犯人と交渉できるようにすべきだと痛感した。」(p115)
「この種の事件の再発を防ぐのには、何といっても、無法な要求には断固として応じない態度をとることが第一であろう。」(p116)
もしも今また同じような事件が起こったなら、果たして現在の日本は、著者が指摘しているように「無法な要求には断固として応じない態度」を取れるだろうか。
それとも「一人の生命は地球より重い」と言って超法規的措置としてテロリストたちを釈放した福田内閣と同じ過ちを犯すことになるのだろうか。
もちろん私は筆者の意見に同意する。
無法者のテロリストの要求に屈するなどということは、「日本はテロを世界に拡散するのか」との誹りを免れることはできず、国際社会からの信用の失墜はおろか、国内においても政治・行政に対しての信用をなくすこととなろう。
もちろんテロリストに対して断固たる態度をとるということに反対する勢力の抵抗もあろう。未だに日本ではそうした言論が罷り通ってしまうところがある。
しかし、そうした抵抗を排し、国民の生命を守り、国家の尊厳を守る姿勢を貫くことができるか。
国民一人一人の覚悟が試されることとなるだろう。