読書感想文:『ミトロヒン文書 KGB・工作の近現代史』 | 倉山塾東北支部ブログ

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山内智恵子著 江崎道朗監修『ミトロヒン文書 KGB(ソ連)・工作の近現代史』読了。

 

山内さんの初の著書であり、江崎先生監修の本である。

 

本書で紹介されているミトロヒン文書とは、KGBの機密文書の一部を、KGBのアーキヴィストで文書管理責任者であったワシリー・ミトロヒンが写し取ったものである。ヴェノナ文書やヴァシリエフ・ノートに並ぶ最重要の一次史料の一つである。

 

非常に興味深い内容で、

「ああ、英語とかロシア語とか読めたら原典に直接当たってみたい!」

と思わずにはいられなかった。

 

そして、文中の太字になっている箇所は、とりわけ参考になった。

 

 

「大事なことにわずかなカネを惜しんでいると、取り返しがつかなくなる」(p39)

 

「国家の命令に殉じて命を失った兵士への慰霊も顕彰もしない政府は、ろくなものではありません。これは、アフガニスタンへの軍事侵攻の是非とは別の問題です。」(p76)

 

「共産党にはもれなく非合法組織がついてくる」(p90)

 

「資本主義国で多くのエリート・知識人たちが共産主義に魅了されていった背景には、大恐慌による経済の混乱があります。」(p105)

 

「言論の自由が尊重されない社会では、どんなに強力な諜報組織も機能しなくなる」(p134)

 

「どんなに良質の情報があっても、正しく分析して国策に活かすことができなければ何にもなりません。」(p135)

 

「ソ連の工作はどこまでうまくいっていて、どこに限界があったのか、それ以上にうまくやるにはどうすればいいのかを、目を皿のようにして調べて検討している国が絶対ある」(p215)

 

「圧倒的に世論が支持している政権に対して、偽情報のプロパガンダは結局歯が立たない」(p266)

 

「ソ連と比べると、今の中国ははるかに強かです。」(p270)

 

 

などなど…。

 

それらの中で特に大事だと思ったのは、

 

「善政を行うことが防諜の基礎」(p188)

 

である。

 

ソ連・コミンテルンが凄まじい工作を仕掛けていたのは事実である。しかし、それだけではなく、共産主義思想や国家社会主義といった全体主義的思想が蔓延りやすい環境があり、それが悪意のある組織の影響を受けやすくなる原因でもあった。

 

全体主義的思想が蔓延りやすい環境というのは、すなわち大恐慌などによるデフレ不況である。

 

これが続くと、人々は生活が立ち行かなくなり、極端な思想に走ってしまう。

 

国民が塗炭の苦しみを味わっているのに、それに対して何ら有効な手を打たず、それどころか精神論など説き始める。

 

国民が苦しんでいるときに、国民に政府に対する不信感を与えてしまえば、敵に付け入る隙を自ら与えていることになる。

 

これを悪政と言わずして何というのか。

 

昭和恐慌以降の日本もそうであり、またコロナ禍と消費増税に喘ぐ現在の日本は、まさにこのような状況なのではないか?

 

ついでに言うと、大東亜戦争の敗戦から日本が反省すべきことの一つは、敵に付け入られやすい環境を作り出してしまった、ということであろう。

 

 

逆に、戦後では池田勇人内閣が所得倍増計画を推進し、左翼勢力の力をみるみる削いでいった。

 

人は生活が豊かになり懐に余裕が出てくると、安心して暮らせるようになり極端な主義・主張にはあまり関心を示さなくなる。

 

敵に付け入る隙を与えなかったのである。

 

正しい経済政策を行うことで国民生活が豊かになる。これが国内の不穏分子の力を削ぐことにつながる。つまり安全保障政策となるのである。

 

これが善政の好例といっていいだろう。

 

歴史に学び、状況に応じて正しい政策を採り、政府と国民の間に不信感が芽生えないようにする。

 

これが大事なことなのではないだろうか。

 

 

それともう一つ。

 

リッツキドニー文書、ヴェノナ文書、マスク文書、イスコット文書、ヴァシリエフ・ノート、ミトロヒン文書といった最重要の一次史料が公になり、ソ連の諜報活動が世界中で行われていたことが分かったのだが、あくまでもこれらは膨大な機密文書の一部である、ということである。

 

公開されていない、そして今後公開されることは余程のことがない限りないであろうソ連の機密文書は、まだまだあるのである。

 

しかしながら、本書で紹介されているミトロヒン文書をはじめ、様々な文書からソ連の工作があったという事実は判明したのである。

 

我が国においても、これまで通説とされてきた歴史の修正が求められることは間違いないし、またそうしなければならない。

 

 

というわけで、本書は日本を何とかしたい、と思う人は必読の一冊である。

 

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