倉山満『若者に伝えたい 英雄たちの世界史』(ワニブックス 2020年)読了。
塾長の最新刊である。
面白くて読みやすく、あれよあれよという間に読み終えてしまった。
さて、通読しての感想は、フィリップ・マーロウみたいになってしまうが、
「強くなければ生きていけない」
ということである(マーロウは、この後に「優しくなければ生きていく資格がない」と続く。マーロウのこの台詞は座右の銘です)。
「強さこそが、すべて。自然界の掟です。」(p23)
「インディアンたちがどんな罪を犯したというのでしょう?いきなりやってきた見知らぬ人間をお人よしに歓待し、自分の土地を守り切れなかったことです。…(中略)生きている時に不正を正せない、弱いということは、それ自体が罪なのです。」(p70)
「力のない者は、言いなりになるだけ。」(p131)
自分の意思をしっかり持ち、自分が生きたいように生きるには、力を持たなければならない。
逆に、自分の意思を持たず、自らの運命を他人に委ねると、どうなるか。
呼吸をし、食事をし、排泄をするなど、生命活動を維持するという意味では「生きる」ことができるだろう。
しかし、自分の心のままに、自由に「生きる」ことはできない。他者に自らの生殺与奪の権を握られているからである。
「難しいことは分からない」「その日をなんとなく生きられればいい」というような退廃的というか、刹那的な生き方でいいんだ、という人ならばそれでもいいのかもしれない。
しかし、私は他人に自分の命を勝手に奪われるなどまっぴらごめんだ。他人に自分の自由を奪われているなど到底許容できない。
自分の意思で限りある人生を生きたいのだ。
不正を行う連中に制裁を加えられない、つまり力がなく弱い奴が悪い。力がない、弱いということ自体が罪ならば、その罪から逃れるためには、強くなるしかない。
もちろん、教育の現場で子どもたちを指導するときに「いじめっ子は悪いことをしているけど、それを悪いことだと咎められないいじめられっ子の方がもっと悪い」などと本気で教える教師がいたら、そんな奴は教壇に立たせるわけにはいかず、教員免許剥奪すべきだ。
だが、社会に出れば弱肉強食の世界が待っている。
学校や家庭では「弱い者いじめをしてはいけません」としっかり教え、いじめた奴にはきちんと自分が行ったことの反省をさせる(昨今のいじめ問題に関しては、最早「いじめ」などとぼやかして表現すべきものではなく、明らかに犯罪行為を行っているものも多々あるので、これは警察や司法が刑事事件として介入し、法の裁きを受けさせるべきと思うが、ここでの主題から外れるのでこの辺で止めておく)。
そうして学校や家庭できちんと身につけた「弱い者いじめをしてはいけない」という”正義”を弱肉強食の社会で実現するためには、力を持たなければならない。力のない奴の言うことなど誰も聞かないからだ。
力さえ持てば何でも許されるのか、という重大な問題もあるが、それは力を持たなくてもいいということにはならない。力の使い方の問題は、力をつける・つけないということとは別個に考えるべきことである。
まずは、誰にも文句を言わせない、自分の意思を押し通すだけの力を身につけることが肝要なのだ。
それから、もう一つ大事なこと。
強さだけではなく、同時に賢さも身につけなければならない、ということだ。
腕力だけあっても、知力が足りなければ折角の腕力を活かすことができない。
「ザビエルが日本の農民に論破されてしまうのは、頭が悪すぎます。逆に言えば、日本人がどれだけ頭が良かったか、なのですが。」(p85)
現在の日本を考えると、ザビエルみたいな人に簡単に踊らされてしまう人が、とても多いのではないか?
少なくとも、テレビや新聞やネットといった様々な媒体から情報を、何の疑問も持たずに鵜呑みにしてしまい、自分の頭で考えない人が多いように見える。
構図としては、宣教師が布教と称して植民地の現地人に説教を垂れ、何の疑問も持たずに現地人がまんまと洗脳されてしまうのと同じようなものだ。
たとえ知識がなくとも、戦国時代の農民のように話を聞いているうちに疑問を持ち、おかしな点をつくというように、考えながら話を聞くことだってできる。
賢くなるということは、知識を身につけることもとても大事だが、それだけではない。
自分の身の回りのことに、少し興味・関心を持って、自分の頭で考えながら人の話を聞くだけでも違ってくるのではないか。
大事なのは、まずは自分の頭で考えるということだ。知識は、自分で物事に興味・関心を持ち、自分で考えるようになれば自然に少しずつ身についてくるものである。
最後に。
強く賢くなる。これは、「文武両道」と言い換えることもできるだろう。
本書のような教科書で学ぶ若者が、文武両道を修め、次代の日本を背負っていく人材へと成長してくれれば、そしてそういう若者が一人でも多くいてくれれば日本の未来に光が見えてくるだろう。
そう思わせてくれる1冊であった。