V.ボグダナー著 小室輝久/笹川隆太郎/R.ハルバ―シュタット共訳『英国の立憲君主政』(木鐸社 2003年)読了。
日本における立憲君主政を考えるのならば、英国のそれも学んでおかなければならないだろうと思い、読んでみた。
巻末の索引や資料を除いて、本文は2段組なので、けっこうボリューム感があった。しかし、内容はどれも興味深いものばかりで、割と読み進めやすかったと思う。
さて、本書の内容であるが、
第一章 立憲君主政の発展
第二章 憲制の基本ルール・その一――王位継承
第三章 憲制のルール・その二――影響力と大権
第四章 首相の任命
第五章 憲制の危機三例
第六章 絶対多数党不在議会と比例代表制
第七章 王室財政
第八章 国王の書記翰長
第九章 国王と教会
第十章 国王とコモンウェルス
第十一章 立憲君主政の将来
となっている。
英国の立憲君主政がどのようなものかが理解できるとともに、日本の立憲君主政はどうあるべきかを考える際には非常に有用なものであった。
例えば、第九章だと天皇と国事行為に関わる問題、第二章であれば皇位継承の問題、第三章や第四章だと、帝国憲法の下でどのような運用がなされていたのか、などと置き換えて考えることもできる。
日本国の根幹は天皇・皇室である。ならば、日本がこの先世界の中で生き残っていくためにはどのような形が望ましいのか。これをしっかりと考えなければならない。
そして、憲法論議は、こうした国のあり方に関わることをこそしっかりと議論すべきであり、条文云々などという議論は一番最後にすべきものだということを教えてくれる一冊ではないかとも思った。
全ての章が重要な論点を取り上げていて、とても勉強になったのだが、その中から「第十章 国王とコモンウェルス」にいて少し触れたいと思う。
コモンウェルスとは何なのか。
「国連やNATOやEUは、独立の諸国家を相互に結び付けようとしている。コモンウェルスは、それとは異なって、帝国という一つの結合形態を、自由意思による協力を基礎とした別の結合形態に置き換えたものである。」(p257)
「コモンウェルスは、特定の時点において創設されたものではないので、その公式な憲制やルールは存在しない。コモンウェルスは、新しい形態の国際組織である。」(p257)
「コモンウェルスを最も正しく理解するならば、それは実用目的の国際組織ではなく、一種の国際的なロータリー・クラブのようなものであり、構成国が互いに相談し、時には協力することを選択した結社である。この点からすると、コモンウェルスが何を《する》かよりも、コモンウェルスとは何で《ある》かのほうが、より重要であるはずである。」(p289)
多分大方の日本人は、国際組織というと、国連やNATOやEUといった、何らかの目的があって、何かを《する》ものを思い浮かべるだろう。
日本ではこれに類するものがないので感覚としてつかみづらいところがあるかもしれない。これも世界各地に植民地を持っていた英国ならでは、というところだろう。
コモンウェルスの中でも様々な問題があるようであるが、緩い結びつきとはいえ、大英帝国を構成していた諸国の結びつきというのは、安全保障や経済という観点からも決して軽く見ることはできないものと思われる。コモンウェルスを構成する諸国の総人口は世界の約4分の1にあたる約15億人もいるのだから。
時間のあるときにもう一度読みたいと思わせてくれる本だった。立憲君主政や憲政史など、憲法に関わる分野に関心のある向きは一度は読んだ方がいい本なのではないだろうか。
