安達誠司『恐慌脱出ー危機克服は歴史に学べ』を読んで | 倉山塾東北支部ブログ

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この本の中に、戦前の2回の恐慌と「失われた10年」における日本の教訓を踏まえて、オバマ政権下でどのような経済政策がとられれば、アメリカは恐慌脱出(リーマンショック)の罠から抜け出せるかについての考察が書かれている。

今次のコロナ禍によって引き起こされている経済危機は、これまでの恐慌やリーマンショックと単純比較できないと考える方もいるかもしれない。

では、このコロナ禍による経済危機を脱出するための方策を考える際に何を手がかりにするのだろうか?

勘や思いつきで政策を決めていくのか?

はたまた、目先の人気取りのため、支持者からの歓心を得ることを第一に政策を決めていくのか?

それでは一向に経済危機からは脱出できないだろう。

私はこういう時こそ、歴史に学ぶべきだと考える。

歴史に学ぶことで、何をすべき気が見えてくる。

本書は過去の恐慌の歴史を踏まえて、発刊当時の経済危機(リーマンショック)への対応についての考察が書かれている。

歴史を踏まえて現実の経済を考えたいと思う方には、安達誠司先生の著作は必読の書である。

さて、本書において、恐慌型不況から脱出するための重要な重要なポイントは重要な順番に、

①政策の最高責任者による危機克服についてのコミットメント表明
②「マクロ金融政策」としての量的緩和の実施
③金融システムの安定化

と書いている。

私も著者が「政策の最高責任者による危機克服についてのコミットメント表明」を最も重要だと考えている点には大いに賛同できた。

①政策の最高責任者による危機克服についてのコミットメント表明 は、アメリカのフランクリン・ルーズベルトが大恐慌期に「1年以内のデフレ脱却」を民衆に約束したというエピソードから得られるものである、と本書に書いている。

少し長いが、本文から引用する。

「政策の最高責任者である大統領自らが、国民に向かって高らかにデフレ克服を最重要課題として、政治生命をかけると宣言することは、経済政策に対する信頼感を国民に与え、国民のセンチメントをポジティブに変えるという意味において、きわめて重要である。また、大統領が国民の前で「ぶち上げる」ことによって、政策当局者は、危機克服に向かって、全力を挙げざるをえなくなる(『恐慌脱出ー危機克服は歴史に学べ』(Kindle版位置No.1454)

これは現在のコロナ禍においても言えるのではないだろうか?

例えば、アメリカのトランプ大統領やイギリスのボリス・ジョンソン首相は、自らの言葉によって国民に語りかけて協力を求めるとともに、大胆な政策を「ぶち上げて」国民の生活を支えている。

一方、我が国日本はアベノマスクや和牛券という「残念な政策」を「ぶち上げた」結果、国民の政府への信頼を大きく損なう結果となった。

普通の対人関係においても言えると思うのだが、信頼できない相手の話を聞こうとは思わないだろう。

当たり前の話だ。

しかし、その当たり前が出来ないのが、現在の我が国政府の現実である。

悲観していてもしょうがないので、どうするかを考えなければならない。

安倍首相、どうやら政治生命をかけるつもりはないようである。

以下は時事通信の4月7日の記事である。

「安倍首相、コロナ感染抑止失敗でも辞任せず」

安倍晋三首相は7日の記者会見で、緊急事態宣言を発令しても新型コロナウイルスの感染拡大が抑えられなかった際の自身の責任について、「最悪の事態になった場合、私が責任を取ればいいというものではない」と述べ、辞任を否定した。
これまでの政府対応に関しては、「他の国々と比べて、感染者も死者の数も桁が違う」と述べ、一定の成果を挙げていると強調した。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2020040701326&g=pol

ルーズベルト大統領のエピソードを鑑みると、政策の最高責任者が「政治生命」をかけるつもりがなく、政策がグダグダで、政策の最高責任者に対する信頼が損なわれているのでは、いつまで経っても、この危機を脱することが出来ない可能性が高い。

であるならば、安倍内閣に終止符を打ち、新しいリーダーに「コミットメント」を表明して、国民の感情をポジティブなものに変える他ないのではないか。

自民党が与党に戻ってから、安倍一強と言われて久しいが、この難局を打開するためには「人心一新」が必要である、と考える。