熊谷直『帝国陸海軍の基礎知識』(光人社NF文庫、2014年)読了。
序章 沖縄戦と軍事制度
第一章 日本の洋式軍事制度
第二章 軍政と軍令の構造
第三章 階級制度
第四章 給与制度
第五章 服制
第六章 兵役制度
第七章 軍縮と編制
第八章 軍の教育
第九章 軍の法務
第十章 経理部門
第十一章 医事衛生部門
という構成になっていて、帝国陸海軍についてざっくり学ぶには手頃でいいかと思う。
どの章も勉強になるところがあったが、やはり帝国陸海軍の問題点に関する記述が一番勉強になっただろうか。
様々な問題点があるが、その中で特に一つ挙げるとすると、明治四十(1907)年の帝国国防方針が定められた際、仮想敵にロシアとアメリカが示されたことだろうか。
一応仮想敵としての順番はロシア、アメリカ、ドイツ、フランスとされている。しかし、日露戦争の報復を考えるとロシアが仮想敵の一位は分かるが、なぜ二位がアメリカなのか?
一言でいうと、海軍が陸軍に対抗して、「ウチの仮想敵はアメリカです」という主張を通したため。
だから、陸海軍の妥協の産物として、ロシアとアメリカ両方を仮想敵として示した。
これは帝国国防方針とは言いながら、実際は陸軍の国防方針と海軍の国防方針の二本立てということであり、国家としてどうするか、というのでなく、ただただ役所の縄張り争いをしていた、ということなのではないか。普通に考えれば、方針が2つもあれば不具合・不経済性も大きいはずなのに…
それともう一つ、兵站や非戦闘員(憲兵、主計、軍医・衛生など)の重要性である。やはり帝国陸海軍はこれらを軽視していたとの謗りは免れがたいだろう。現在の自衛隊にも同じことが言えると思うので、「では、どうするか」を考えるときに押さえておくポイントだと思った。
「現在に生きるわれわれは、長い目で見た将来に、誤りの種を播かないようにしなければならない。そのためには、過去の歴史の中に、日本人の陥りがちな誤りの傾向を探ることが必要であり、また歴史の中から、望ましい種を拾って、今後に備えることも必要である」 (あとがきより抜粋)。
蓋し至言である。