上京してから8年。

苦楽を共にした家具は数多い。

しかしながら、初期メンバーの数は少なく、そして今、そのひとつが逝こうとしている。


こっちに来て4回だか5回だか引越しをしているので、今さら家に思い入れもないが、

しかしながら家具となれば別である。


炊飯器無き時代に私の食卓を支えたオーブン付き電子レンジは昨年度末に大病を患い、その末峠を越えて、今も私に美味しいグラタンを提供してくれている。


地元長野のドラッグストアで購入した安い卵焼き用フライパンは、数々のフライパンがテフロンを失って離脱していく中、未だに前線にたち続けている。

購入時のピンク色はもはや完全に黒に染まり、擦っても擦っても無限に茶色い色素を生成する永久機関となっているが、しかしながらその役目を果たすにおいては現役だ。


同じく初期メンバーだったのが、テレビだ。

学生時代は私の鬼のようなアニメ録画の指示を見事にこなし、時にBlu-ray再生機器として私の興味を満たしてくれた。

いつだったか忘れたが、牛乳をこぼしてスピーカーの細かい穴に未だに消えない白い汚れを作ったこともあった。

時は流れ、今や完全にパソコンのサブモニターと化している彼だが


ついに、最近様子がおかしい。

定期的に画面の明滅を繰り返すようになったのだ。

それはまるで、自身の不調を認めないかのような、消えかける命のような輝きだ。


思えば色んなことがあった。


録画予約のし過ぎでハードディスクをよく破裂させた。そのせいで見逃した番組もいくつかあったが、しかし悪いのは完全に私だ。

HDMIを繋いでモンハンやメタルギアをやった。

発売日に地元の友人と遊んだのは懐かしい。


幾度もした引越しの際は1番丁寧に扱った。

毛布をぐるぐる巻きにして養生で止めた姿を何度も見て、それを運んだ。


今日もパソコンのサブモニターとして、TRPGに興じる私の助けをしてくれる。


ああ…だがしかし、君はここまでか。


まだ生きている。

しかし、終わりが近い。


失うことなど考えもしていなかった。

あまりに当たり前すぎて、全てのものに別れがある事をつい忘れていたよ。


どこまでも一緒にいけると思っていたんだ。

既にPCのメインモニターに解像度を越され、PCから出力される文字が潰れていることもあったが、それでも僕は君と一緒にいたかった。


でも、ここで終わりなんだね。


今までありがとう。

残りの時間を使って、君との思い出を振り返ろうじゃないか。


いつまでも消せないHDDの中にある録画を見よう。

副音声でオーディオコメンタリーを地上波で流した、再放送の化物語を見よう。

録画したまま消化してない水曜どうでしょうの新作を見よう。

母親に、長野じゃ映らないから録画しておいてと頼まれたきり、ディスクに焼いてないドラマを今度こそ焼こう。


どれだけ叶うか分からないが、できる限りをしようじゃないか。

ありがとう、テレビ。

ゆっくりとおやすみ。



っていうか、新しいモニター買うのいくらするんだろ…。

同じ大きさって相当高くねぇか?

あとテレビって確か廃品回収呼ばなきゃいけないやつだよな…めんどくせぇ。。