電子書籍の存在はインターネットの登場と共にある、らしい。
マイケル・S・ハート氏が著作権の切れた書籍をデータとしてインターネット上に集積し、
そこを電子図書館として公開したことがはじまりであるとされている。
それが1970年代のことであった。

時は移り2010年にApple社よりiPadが発売され、
本を紙としてではなく、データとして読むのが世間に広く認知されたことにより、その存在は普及。

2016年に紙書籍の売上と電子書籍の売上がほぼ同額になったタイミングを最後に、その後は電子書籍が紙書籍の売上を上回る市場を形成している。

古きを良きとする日本文学界の性質を持ってしてなお、電子書籍は驚くべき速さで普及して行った。
しかし、その内訳を見てみると、
どうやら売上を牽引しているのは一般的な小説ではなく、漫画作品であることも分かる。

漫画は性質上、電子書籍との相性がよく、
本稿をご覧の皆様も1度は電子媒体の漫画をご覧になったことがあるだろう。

それでは一方、小説を初めとする文学作品はと言うと
やはりというか、売上は伸び悩んでいた。

本稿はそんな文学好きに電子書籍を勧めると共に、
紙媒体の読本に関する警鐘を鳴らすものである。

第一に、電子書籍のメリットとして挙げられるのはその手軽さにある。
紙と違いデータであるので、質量や重量を持たず、
かさばることも無い。
端末を持ち歩くことが、自室の書斎を持ち歩くことと同義である。
読みたい時に読みたい本が読め、忘れてしまうことも無ければ、重さに汗をかくことも、本が痛むこともない。
その携行性においてはるかに優れているのである。

ここまで話したところで、
文学スキーな諸君は「そんなこと先刻承知している、それを差し置いて紙が好きなのだ。」と言うであろう。

もちろん、私も紙書籍が嫌いな訳では無い。
本独特の紙やインクの香り、1ページごとめくることで、より文章に大切に向き合える心理効果。
重さや手に触れることで初めて感じる本の味というものは何ものにも変え難い。
これはデータとして目を通すだけでは決して得られない読書体験である。

しかし、次の話をすると半数以上の人間が意見を変えることであろう。

第二にコスト面の話だ。
そもそも小説や漫画、雑誌を含む書籍の売上は年平均として下降の一途をたどっている。
それは人々の生活の中に娯楽の選択肢が増えたことに起因している。
私の子供の頃といえば、まだインターネットは普及しきっておらず、
娯楽といえばテレビや漫画、それにゲームであった。
もちろんこの時点でも娯楽の多様化により、年々書籍の売上は減少傾向にあったのだが…
次いで無料アプリゲームや動画配信サービスの台頭、あらゆる娯楽が無料でスマートフォンから受けれるようになった現代において、
書籍は娯楽としての肩身が狭くなっていっている。
もちろん市場規模も縮小が続いており、
このままでは我々が愛した作家やこれから愛すべき作家は物書きとして食えなくなる時代がやってくる。
電子書籍というのは、そんな業界からの反撃の一手なのだ。

まず電子書籍は印刷の必要が無い。
紙とインクの費用がかからず、また店頭に並べる必要も無いので在庫管理が必要ない。
品切れを起こすこともなければ、在庫を腐らすことも無くなったのである。

そして、次が私が皆様に強く訴求したい1面である。
作者に反映される利益が大きいのである。
通常、本というものは物体であるために、
読了すればその本質的な価値を維持したまま中古業者に売られる。
BOOK・OFFで100円の値札が付いた希望小売価格1000円の本なんて珍しくない。
もちろん小売店ではなく、中古販売になるので
作者に印税が渡されることもない。
中古店で買ったそのお金は、出版社や作者ではなく、
中古店の総取りである。

この状況が続くとどうなるか?
作者や出版社はもちろん、業界全体がやせ細り、
私たちが未来に読むはずであった本は、二度と我々の目に触れることは無いのである。
これが、現代の文学界が抱える大きな問題点である。
電子書籍はこれも見事に解消した。

電子書籍はその性質上、二次配布や中古販売が困難であり、
読者が購入する本はその全てが新刊本となる。
するとその売上は出版社や作者に正しく反映され、
我々の愛する名著やまだ見ぬ書籍は守られていく。

そして第2に、新しく書籍を販売する時のリスクが大幅に減るのである。
通常本の販売というのは、その作者の知名度や書籍の内容、話題性などを考慮し、初版発行部数というものが決められ、
印刷、各書店に販売される事になる。
これには毎回リスクがともない、印刷部数が多ければ在庫を抱えて赤字、部数が少なければ売れるはずだった書籍が史上に出回らず得れるはずの利益を得られなくなってしまう。
リスクを嫌い弱腰になれば新しい作家は生まれず、
我々は「何らかのコンクールで入賞した、審査員の好みに沿った作品」にしか出会えなくなってしまう。
これでは面白みにかけるし、新しい作品も出てこない。
しかし、電子書籍であれば違う。
初めは電子書籍オンリーの低リスクで販売を開始し、売上を見込めれば話題作として紙書籍として出版という手段も取れるし、
まだ見ぬ作者と我々が出会う機会も増えるのだ。
この点において、電子書籍は従来の文学よりも進化した媒体だと言える。


まとめとして。
私は紙書籍自体を否定はしない。
紙には紙の良さがあり、私も紙で読みたい作品は常に手元に置いてある。
紙媒体でしか表現出来ない本もあるだろう。
それ自体を悪しき風習としているわけではない。
ただ、それが電子書籍を拒み排他的になる理由としてはいけないと考えている。
闇雲に電子書籍を否定するのではなく、1度手に取りその性質を知り、
その上で紙で読みたいものは紙を、電子で読みたいものは電子を、
ハイブリットな読者であれるのなら、それは文学界にとっての一助となり得るのではないだろうか。
読書スキー諸君の読書量が見識を懲りかたまらせる物ではなく、より見識を広め新しい価値観を受け入れる精神性の獲得に貢献している事を願う。