韓流が流行る前の韓流映画 | Kura-Kura Pagong

Kura-Kura Pagong

"kura-kura"はインドネシア語で亀のことを言います。
"pagong"はタガログ語(フィルピンの公用語)で、やはり亀のことを言います。

 男の韓流スターが兵役に就く、なんて芸能ニュースが流れるようになって、韓国では徴兵制があるということが日本でも知られるようになった。ここで取り上げる韓国映画『美術館の隣の動物園』は韓国の徴兵制が背景にある映画だ。発表は1998年。日本で韓流ブームが起きるだいぶ前の作品である。

 

 

 映画は、兵役中の男が休暇を恋人のアパートで過ごそうとするところから始まる。合鍵を使って恋人の部屋へ入り、くつろいでいると、帰ってきたのは恋人とは別人のがさつな女だった!男が兵役に就いてから恋人は心変わりし、別の男と婚約し、男の黙ってアパートを出た。そして、フラレ男とガサツ女の10日間の同居生活が始まる…。

 熱々のカップルだったのが、彼氏の兵役中に彼女が心変わりして…。そういう話は現実の韓国でよくあることだ、と知り合いの韓国人女性は語っていた。

 

 さて、元恋人に替わってアパートの住人となっていた女は、シナリオライター志望。国会議員秘書のオジサマに恋している。ちなみに、このオジサマを演じているのは韓国の国民的俳優と呼ばれているアン=ソンギ。

 

 さて、男は元恋人とヨリを戻そうとする。元恋人、登場シーンの格好は黒いミニのワンピース。バブル期の日本ではボディコンというのがよく話題に上ったが、元恋人が着ていたのはそんなやつ。スレンダーな体型をくどいほどに強調している。メイクは当時韓国で流行っていた紫の唇。そしてタバコをスパー!私はこれを観ていて「この女、社会的地位のある男に乗り換えたか?男の敵!」などと思ってしまう。

 

 さて、ガサツ女はフラレ兵士が気の毒で男の元恋人と話をしに行く。そのうちに男はそんな女に優しくなっていく。どういうわけか、女が懸賞に応募するためのシナリオづくりを男が手伝うようになる。

 シナリオのタイトルは『美術館の隣の動物園』。美術館に勤める若いお姉さんが主人公だ。彼女が恋するのは動物園の飼育係のオジサマ。議員秘書のオジサマと同じ顔をしている。そしてヒロインを演じるのはあのボディコン女と同じ女優である。暖かい赤いフレアのロングスカートにフリルのついた白いブラウス、赤いカーディガン。メイクはもちろんナチュラルメイク。元恋人がフラレ男と出会ったときの格好がこうだったのか、それとも男の妄想の中で理想化された元恋人なのか。いずれにしても観客の私まで胸がキュンとなる…。

 

 シナリオのストーリーを巡って、あれこれと意見を言い合う男と女。やがて二人はそれぞれ自分の今の気持ちに気付いていく。理想化した彼/彼女には目も呉れず一心に走るふたり。そしてエルガー作曲『愛の挨拶』のメロディーに乗ってほんわかした女性ボーカルが流れてエンドロールである。

 

 後日、韓国女性の知り合いにこの映画の話をしたら

「あの映画は女性の視点の映画ですよ。」

と言われた。だが、この映画はフラレ男にもちゃんと感情移入できるようにつくられている。

 

 韓流が流行る前につくられた韓国映画のはなしであった。