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経営側弁護士による最新労働法解説

人事・労務に関連する労働法の最新問題や実務上の留意点などを取り上げて解説していきたいと思います。
また、最新判例についても言及します。

メンタル記事の続きを書こうと思ったのですが、どうしても書きたい事項がありましたので

寄り道させて頂きます。


http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2011/080.html


リンクは、経団連の「今後の高齢者雇用のあり方について」という意見書である。


先日、厚生労働省内に設置された学識者による「今後の高年齢者雇用に関する研究会」

が研究会報告書を作成し、公表した。


これによれば、現在の60歳定年→一定の基準を満たす方のみ再雇用

という流れではなく、65歳定年を法定化するようである。


その理由は、平成37年度までに段階的に厚生年金の報酬比例部分支給開始

が65歳まで遅れることに伴って、その部分の穴埋めをすべく、企業に65歳までの

雇用を義務づけるという点にある。


つまり、一言でいえば、年金制度崩壊のツケを企業に肩代わりさせているのである。


厚生労働省の研究会報告書における最大の問題点は、


「企業に対するヒアリングでは、専門的技能・経験を有する高年齢者

基本的に経験を有しない若年者とでは労働力として質的に異なるという意見や

新卒採用の数は高年齢者の雇用とのバランスではなく

景気の変動による事業の拡大・縮小等の見通しにより決定している

といった意見があった。」

との指摘である。


つまり、

高年齢者雇用は若年者雇用に影響は無い」

と宣っている点にある。


しかし、常識的に考えて、人件費には限りがあるため、影響がないことの方が考え難い。

この点、経団連の意見書においては、


「雇用と年金の接続を『企業の社会的責務』とするような考え方は、個別企業のみに

過大な責任を求めるものであり、それが定年対象者に限られるとしても、

あまりに一方的であると言わざるを得ない。

個別企業の雇用確保に依拠した政策対応が中心になるとすれば、企業に対し、

本来は不要な業務を作り出してまで、高齢者雇用を強いることになる恐れもある。

その場合、グローバル経済化が進展する中で厳しい競争を強いられている企業の競争力を損ない、

企業そのものの存続、さらには我が国経済活動全般に対し悪影響を及ぼしかねず、

結果的に雇用情勢の悪化を招く恐れもある。」


とした上で、若年者雇用について


「現下の経済環境を背景に、ただでさえ新卒者が厳しい就職環境下に置かれ、

既卒者への対応も政策的に重要な課題となっている中にあって、

高齢者のみが優遇されるような政策が打ち出されれば、

就業機会の公平性という観点から極めて問題があると言えよう。」


としている。


つまり、

「なぜこの不況下にあって高齢者だけが保護されるのか」



「年金崩壊の尻ぬぐいををなぜ民間企業がしなければならないのか」


ということである。


もちろん、少子高齢化による労働力人口減少に対応していくためには、ある程度の

高年齢者雇用を行うことは当然必要であろう。


しかし、これを完全に法律で強制するのが正しいのか、という話である。


高年齢者雇用の問題については、一律に一定の義務を全ての企業に課することは

極めて困難であろう。

筆者としては、その企業の規模や業種・職種により、労使間の協議の中で、当該企業に

マッチする方策を検討するのが最も望ましいと筆者は考える。




※この問題については様々な意見があることは承知しておりますが、

筆者の個人的見解を述べさせて頂きました。




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【前回からの続き】

企業としては「完全に体調が治るまでは復帰してはならない」と言って復帰を拒むことができるのであろうか。




メンタル不全により休職している労働者の側から、「従前の業務はできないが、簡単な業務であればできるので復帰させて下さい」という希望があった場合の話だ。



現実問題として、メンタル不全による休職者の休職期間満了での退職を望んでいるわけではないため、休職期間満了間際にこのような希望が寄せられることは往々にしてみられる。


特に、診断書を提出してくる主治医が休職者の言うがまま、診断書に「1日6時間勤務で残業なし。軽減業務に就かせること」などと書いてくることもあるため、人事としては対応に苦慮することがある。




この点、企業としてもある程度は休職者の要望に応じようとはするものの、その全ての要望に応ずることは不可能であるためどこかで線引きをしなければならない。




つまり、休職者が希望するような「軽減業務」を、どのような規模の会社でどのような労働者であっても、全てに適用する必要があるのかという問題だ。







この点に関して、最高裁は、休職者の業務遂行能力が低下した場合であっても、「労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である」と判示し、従前の業務はできない状態でも労務提供を拒んではならないとしている。





これは業界では有名な片山組事件(最高裁第1小法廷平成10年4月9日)の判示であるが、現在の実務はややこの事件の判示が一人歩きしている感が否めないといえよう。




すなわち、あたかも労働者が、軽減業務の遂行が可能であると希望しているのであれば「あえて仕事を作ってでも簡単な仕事を用意して、復帰させなければならない」といった義務までをも最高裁が想定しているかのような考えである。




しかし、片山組事件は、大企業において、当該労働者が以前担当していた経験のある業務への配置換えの可能性を指摘しているに留まるものであると解されるため、この枠組みがいつ如何なる企業にも適用されるわけではない。




同事件にいう「能力、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易」を個々の事案に即して適切に当てはめることが必要なのである。




従って、「最高裁がこう言っているから軽減業務を用意しなければならない」というのは必ずしも正解ではないのである。




例えば、職種限定契約を締結している場合に当該職種の業務に従事出来ない場合や、これまで20年間一つの職しか担当したことが無い場合、従業員数が極めて少ない場合、現場の肉体労働的業務から事務系業務への転換を求める場合などは、従前の担当業務ができない限りは復職を認めないといった取扱いが可能となる場合があるだろう。




結局はケースバイケースの判断となるものであるが、労働者の復帰を受け入れる立場としては、まずは「従前の業務が遂行できるか」という原則を確認すべきであろう。




次回も引き続きメンタル関係【休職を繰り返す者への対応】をお送りしたいと思います。


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メンタルヘルス不調のために休業した労働者の職場復帰支援として、厚生労働省は「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を発出している。

http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei28/index.html





いわば、「職場復帰マニュアル」である。





これによれば、メンタル不調者が職場復帰するまでの流れは以下のとおりとなる。




第1ステップ:労働者による休職

第2ステップ:主治医による職場復帰の診断書提出

第3ステップ:職場復帰の可否判断・職場復帰支援プランの作成

第4ステップ:最終的な職場復帰の決定

第5ステップ職場復帰後のフォローアップ


という段階を適切に踏むことによって、労働者の復帰を円滑に行うというものである。






しかし、これには最も重要と思われる点が欠けている。





すなわち、復帰した労働者に対してどのような仕事をアサインするのかという点である。





通常、正社員の休職期間は半年~長くて2年程度であろう。その際、休職する者が担当していた業務については別の者が担当しなければならない。その後、休職者が復帰するに際し、別の担当者を更に移してまで、もとの業務に復帰させる必要があるのかという点である。





そもそも、企業は労働者の担当業務決定について、広範な裁量権を有しているため、嫌がらせのような仕事でない限り、完全に前と同じ仕事に就ける必要はない。


そうであれば、従前より納期や仕事の密度という点で軽減された業務に就けることも可能であるのだが、問題は最近よく見られる成果主義的賃金体系との関係である。





つまり、軽減業務にアサインすると年収もこれにリンクして下がってしまうという事態である。これが復帰者に対する不利益取扱にならないかという点は、労働契約法上の就業規則の合理性と相まってしばしば困難な問題となる。





合理性判断はケースバイケースなので、当該企業の人事制度、当該労働者の職歴、担当業務、病気の内容、賃金減額の程度、期間、その後の見通しなどを総合的に判断する必要があろう。





次に問題となるのが、労働者の側から軽減業務を求めてくるケースである。





つまり、「私は従前の担当業務はできませんので、労働時間や作業内容を軽減して下さい」と言った格好である。かかる要望に対しては、必ずしも労働者の要望にマッチした業務が存在しないため、企業人事担当者として対応に苦慮することも多い。






このような場合に、企業としては「完全に体調が治るまでは復帰してはならない」と言って復帰を拒むことができるのであろうか。

(この問題は次回解説します。)


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