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経営側弁護士による最新労働法解説

人事・労務に関連する労働法の最新問題や実務上の留意点などを取り上げて解説していきたいと思います。
また、最新判例についても言及します。

【前回からの続き】

クボタ事件を踏まえた応用問題として、例えば、新卒採用において、書類選考を通過し、1次面接にて落選した者が所属する組合から団体交渉の要求があった場合、これに応ずる必要があるのだろうか。



前回記事で、「本判決の射程は限定的なものと解されるため読み方には注意が必要である。」と書いているため、ネタバレしているようなものだが、結論から言えば、

「これに応ずる必要はない」と解される。



新卒採用のモデルケースとして下記のものを想定する。

エントリー

書類選考

一次面接

二次面接

最終面接

採用内定通知

内定式



この場合、新卒者と会社との間で労働契約が成立するのは、早くても採用内定通知以降である(大日本印刷事件最高裁判決参照)。

※内々定などの手続がある場合、どの時点で労働契約成立となるかは個々の事案により異なるため注意が必要。



よって、そもそも採用内定通知前の新卒者は「労働者」に該当しないため、採用不合格などに関し、団体交渉応諾義務はないと解すべきである。



また、あえて労組法上の「使用者」という面から検討しても、「使用者」性に関する前掲クボタ事件の規範は

「当該労働者との間に、近い将来において労働契約関係が成立する現実的かつ具体的な可能性が存する者」

というものである。



すると、新卒者との関係で言えば、最終面接が終了し、採用内定通知が発送される段階となって初めて、「近い将来」に労働契約関係が成立する具体的可能性があるといえるものと解される。

(一般的には、最終面接段階では、具体的可能性が不合格となる可能性が相当程度存するため、あるとはいえないだろう。)



従って、単に1次面接にて落選した者からの団交申し入れについては、労働組合法上の「労働者」の面からも「使用者」の面からも、これに応ずる義務がないというべきである。



もっとも、採用内定後の労働者については、団交応諾義務が肯定される可能性が高い(もちろん事案により異なる面はあるが)ため、採用内定取消のケースなどにおいては留意されたい。





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クボタ事件(東京地裁平成23年3月17日)


派遣労働者が、派遣先での直接雇用が決定する前後から、

直接雇用化や直接雇用後の労働条件などを団交事項として

組合が派遣先に団体交渉を申し入れ、派遣先がこれを拒否した事例である。



大阪府労委、中央労働委員会共に団交拒否が不当労働行為に当たるとして

救済命令を発した。



これに対して取消を求めて提訴したのが本件であるが、

東京地裁も同様の結論を導いた。



東京地裁判決にいう労組法7条の「使用者」概念とは



「労働契約関係ないしそれに隣接ないし近似する関係を基礎として成立する

団体労使関係上の一方当事者を意味し、労働契約上の雇用主が基本的に該当する

ものの、雇用主以外の者であっても、当該労働者との間に、

近い将来において労働契約関係が成立する現実的かつ具体的な可能性

が存する者また、これに該当するものと解すべきである。」


というものだ。


これは現中労委委員長の菅野説とほぼ同一である。



この考え方の骨格は



①隣接=労働契約締結前、退職後といった時間的拡張



②近似=請負、業務委託、親会社といった、対象の拡張



という点にある。



そして、本件は、①の隣接性(雇用契約締結前)が問題となった事案であろう。



ポイントは、「近い将来において労働契約関係が成立する現実的かつ具体的な可能性が存する者」という点。



つまり、派遣労働者との関係で、派遣先が常に労組法上の「使用者」に該当する訳ではなく、「近い」将来に、労働契約関係が成立することが「現実的」「具体的」に想定しうる事が必要である。



本件も、直接雇用を決定したことから、近い将来直接雇用されることが確実となったため、使用者性が肯定されるものと解される。



類似の例としては、ある子会社が解散し、当該子会社の事業を親会社に承継させ、当該子会社の事業に従事していた労働者を親会社にて雇用することを決定したという場合も、近い将来雇用契約が締結されることが確実であるため、これに該当すると解される。



本判決により、労働組合から、「派遣先は労組法上の使用者に該当するという判決がでたのだから団交に応ずる義務がある」と主張されても、直接雇用を決定する前の通常の派遣関係においては、やはり「使用者」に該当しないため、団交応諾義務がないと主張して争うべきであろう。



本判決の射程は限定的なものと解されるため読み方には注意が必要である。



本判決を踏まえた応用問題として、例えば、新卒採用において、書類選考を通過し、1次面接にて落選した者が所属する組合から団体交渉の要求があった場合、これに応ずる必要があるのだろうか。



この解説はまた次回。



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前々回の記事からの続きです。


正社員の場合、私傷病休職などが認められる期間は、通常半年~1年程度である。 


例えば、休職期間の上限が半年の場合には、半年が経過してもなお症状の回復がみられず、就労不能であるときは、休職期間満了退職となる。

※休職期間満了退職の法的性質が解雇であるか一種の合意退職であるかは法的論点であるがここでは触れない


ここで問題となるケースは、休職期間が半年の場合に、5ヶ月半休んで復帰し、1ヶ月程度出勤したところでまた5ヶ月休むといった者への対応である。



この点、休職関連の就業規則に通算規程を置いていない場合、休職から1日でも復帰して出社すれば、理論上は休職期間がリセットされてしまうことになり、再発したと主張されれば、再度の休職を与える必要が生じることになる。


ここで、一般的に規定されているのが、いわゆる「通算規定」というものである。


通算規定とは、例えば、

「復職後1ヶ月以内に同一傷病により再び休職に入るときは、その休職期間は前の休職期間と通算する」


といった規定のように、前後の休職期間を通算する旨の規定である。

 

ではかかる通算規程を置けば万全の備えといえるのであろうか?



上記例でいえば、2つの問題点があるといわざるを得ない。



①復職後1ヶ月以内と限定している点

かかる規定の下では、復職後、1ヶ月を経過すれば通算規定の適用はなくなるため1ヶ月と1日出社し、その後また休職に入るというケースも実際にある。

例えば軽度うつ病などの場合、1ヶ月程度であれば、無理をして体調を誤魔化しながら出社することが一応可能なケースもある。



しかし、かかる事態となれば、症状も回復せず、企業としても徒に休職状態が続くため、労使双方にとって、不幸な結果となることも多い。


②同一傷病に限定している点

次に、通算の要件として、「同一」の傷病に限っているという点

が問題である。

実際、休職者から提出される診断書には、その記載を代えてくるケース

がある。

例:うつ病、気分障害、睡眠障害、適応障害、うつ状態、

鬱病エピソード…etc


このように、診断書の記載は医学上の病名のみならず、単にその症状を記載するケースや場合によれば、「吐き気」であるとか「頭痛」といった記載に留まるケースもある。

かかる場合、それぞれについて、「同一」であると立証するのは会社側の責任になってしまい、医学的に非常に困難な立証を要求される場合がある(当該「気分障害」と「適応障害」は同じ傷病であるということを立証)。


そこで、これら問題点に対する 一応の解決案は以下のとおりである。(かかる通算規定の現実的な有効性(労働契約法上の合理性)はケースバイケースである点に留意されたい)


 【解決策その1】




「形式的な診断書の記載名に関わらず、実質的に同一又は類似の病状・症状・疾患」



この方式であれば、一定程度の幅をもって通算規定の適用が可能であるため、その適用が容易になる(なお、当然であるが、この場合でも、「うつ病」と「骨折」の通算は不可能である)。



【解決策その2】

さらに進んで、

「その理由いかんを問わず、社員が保有する休職可能期間は、会社と雇用契約を締結している全ての期間を通じ、2年間(※内容の合理性確保の観点から期間を少し長めに設定する)までとする。」

といった規定を設けることも不合理とは言えないではないだろうか。


この規定であれば、休職の原因となった事由を問わず、通算可能となるため、通算規定の適用範囲は極めて広いことになる。



※当該解決策については、労働契約法上の合理性を担保する必要があるため、実際の導入に際しては、就業規則全体との整合性を検討する必要がありますのでご留意下さい。



以上、休職を繰り返す者への対応としての通算規定について解説

しました。

ただし、実務上は、単純な規定の適用に留まらず、個別具体的事案において、休職前後における柔軟かつ適切な対応が必要となりますので、実際の対応には顧問弁護士等への相談をお薦め致します。

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