本日のテーマ
【次の世代に何を残すか…】
私は以前、雑誌の編集に携わっていました。
その雑誌のテーマは、
「次の世代の子どもたちのために…」
でした。
この仕事をきっかけに、私は、
「私たちは、次の世代に何を残すことができるのだろうか」
ということを考えるようになりました。
では、現代を生きる私たちは、先人たちから何を残してもらったのでしょうか。
私は、大きく二つの尊いものがあると思っています。
それは、
「平和」と「豊かな社会」
です。
戦争と戦後の混乱を乗り越え、先人たちは懸命に働き、今の日本の礎を築いてくれました。
私たちは、その恩恵の中で生きています。
だからこそ、今度は私たちの番です。
私たちは、次の世代に何を残すのでしょうか。
そして今、何を残すことが求められているのでしょうか。
このことを考えるとき、私は思想家・内村鑑三のことを思います。
内村鑑三は、数々の著書を通して、日本人の優れた生き方を後世に残しました。
代表作の一つである『代表的日本人』では、
西郷隆盛
上杉鷹山
二宮尊徳
中江藤樹
日蓮上人
という五人の日本人を取り上げています。
そこに描かれているのは、単なる偉人の業績ではありません。
西郷隆盛の生き方、
上杉鷹山の人を思う政治、
二宮尊徳の勤勉と実践、
中江藤樹の徳を重んじる姿勢、
日蓮上人の信念を貫いた生涯。
内村鑑三は、こうした人たちの生き方を通して、
「日本には、このような人物がいた」
「人間は、このように生きることができる」
ということを後世に伝えようとしたのではないでしょうか。
考えてみれば、内村鑑三自身もまた、先人たちの生き方を文章に残し、次の世代へ手渡した一人なのです。
その内村鑑三は、『後世への最大遺物』の中で、後世に何を残すべきかについて述べています。
「われわれが50年の生命を託したこの美しい地球、この美しい国、このわれわれを育ててくれた山や河、われわれはこれに何も遺さずに死んでしまいたくない、何かこの世に記念物を遺して逝きたい、それならばわれわれは何をこの世に遺して逝こうか、金か、事業か、思想か、これいずれも遺すに価値あるものである。しかし、これは何人にも遺すことのできるものではない、またこれは本当の最大の遺物ではない、それならば何人にも遺すことのできる本当の最大遺物はなんであるか、それは勇ましい高尚なる生涯である」
(『後世への最大遺物 デンマルク国の話』岩波文庫より)
ここでいう、
「勇ましい高尚なる生涯」
とは、大きな事業を成し遂げることでも、莫大な財産を残すことでも、名声を残すことでもありません。
私は、
「どのように生きたかを残すこと」
なのだと思います。
人を大切にした。
人の役に立った。
困っている人を助けた。
自分の役割を懸命に果たした。
よりよい社会にしようと努力した。
そんな一人ひとりの生き方こそが、次の世代へ受け継がれていく、大切な遺産なのではないでしょうか。
西郷隆盛も、上杉鷹山も、二宮尊徳も、中江藤樹も、日蓮上人も、今はこの世にはいません。
しかし、その生き方は残っています。
そして、その生き方から、今を生きる私たちも学ぶことができます。
そう考えると、
「何を残すか」だけではなく、
「どんな生き方を残すか」
ということが、とても大切なのだと思います。
世代が交代していくことは、避けることのできない自然の流れです。
私たちは、いつまでもこの時代を生き続けることはできません。
だからこそ、
過去に感謝し、
今を大切に生き、
未来に何を残すのかを考える。
そして、次の世代の人たちが、
「先人たちが、こんな社会を残してくれてよかった」
「こんな生き方をした人たちがいたのか」
と思えるようなものを、少しでも残していきたいものです。
財産や建物は、いつか失われるかもしれません。
しかし、人の心に残った生き方は、世代を超えて受け継がれていきます。
一人の人間がどう生きたか。
その生き方こそ、後世に残すことのできる最大の遺物なのかもしれません。