我が家の家族にうさぎが加わってこの3月で8年になった。
8年前。まだ寒い雨の日、娘は街中の、昔からあるペットショップを訪れた。
朝、半分開いたシャッターの中は薄暗く、一瞬で見渡せる狭い店内には小鳥ばかり。
店の片隅で椅子に座った老店主がだるまストーブにあたる。
『うさぎはいないみたいだな』と思いつつ娘が
「あの、うさぎはいませんか?」
とおずおずと尋ねると
「今朝来たのがいるよ」と店主は届いたばかりらしい段ボール箱をほどき始めたそうだ。
『うさぎが段ボールに入っているの?』
驚く娘の前で、店主がまず取り出したのが小鳥の入ったかご。
『いえ、それはインコ』
そう思う娘をよそに、店主はその下から次の箱を取り出して見せる。
そこに入っていたのが手の平に乗るような子うさぎ2匹。
色はどちらも茶色。
生後一か月のミニウサギとの事。
「3000円」と言われ、娘はその一匹を買ってしまった。
以来、我が家の末娘として大切に育てられている。
「絶対この子、この家で生まれて育ったと思っているよね」
「ペットショップの記憶ないもんね」
「でもね、俺、この子にまだ、本当の俺の子じゃない事を打ち明けてないんだよ」
私がそう言うと
「それ言わない方がいいと思うよ」
「うん。絶対ショック受けるから」
先日久し振りに通り掛かると、ペットショップは閉店していた。
事情は分からない。けれど随分古くからあるお店だったので、あまり驚きはしなかった。
そうなる前に、この子に出会えた事は、本当に運が良かったと心から思う。