6月に友人夫婦が伊豆に遊びに来た。
独身の頃一緒に山に登った相棒なのだけれど、お互いに家庭を持ってからはすっかりご無沙汰になってしまい会うのは随分と久し振りだ。
お土産にわさびを持ち帰って貰おうと中伊豆に足を延ばし、生のわさび、わさび漬け、わさび海苔などを購入。
帰宅すると……庭に1匹のネコがいた。
時々見かけるネコだ。ご近所のキジトラの猫とはあまり仲がよくない。いや、とても仲が悪い。
よく甘える子だ。人懐こく、抱っこをせがみ、膝に乗って喉を鳴らす。だから当然、どこかの飼い猫と思っていた。
ところが今回の来訪で、さくらネコになっていた。
耳の先がちょこんとV字に切り取られている。
TNR(トラップ・ニューター・リターン)、野良猫に不妊手術を施し、殺処分せずに地域で暮らしてゆけるようにという保護活動をしている方達がいる。
不妊手術終了の目印として耳の先を小さくカット。
その見た目を桜の花びらにみたて『さくらネコ』と呼んだり、あるいは『地域ネコ』と呼ばれるそうだ。
「君、のら猫だったの?」
娘が驚いた。いや懐き過ぎてる。あり得ない気がするのだけれど。でも、捨てネコ?
撫でると『もっと!』とせがむ。
喉を鳴らしてすり寄って来る。これまではどこかの飼い猫さんと思っていたから、あまり余計な事をしてはいけないと思っていた。けど、もし本当に野良猫だったなら……
「首輪付けてない子だから、間違えて手術されちゃったのかな?」
どうしたらいいのだろう。事情が分かれば、ご飯をあげたりも出来るのだけれど、このままでは何も出来ない。
何だかつらい展開になって来た。
耳の先が切られています。以前来た時にはまだこうはなっていなかったのに
友人との再会は大雨の日だった。
夫婦の泊まる旅館までの道のりは、一部冠水し、一部通行止めになり、やっとの思いで辿り着き。
こちらも大変だったけど、友人も大変だった筈。奥さんは疲れていたろうし、温泉浸かりたかったろうし、ご飯食べたかった筈なのに、私と友人との間で話に花が咲いてしまった。早々に帰らなければと気持ちは焦るのに、中々切り上げられない。スイマセン。
とにかくもお土産は無事に手渡した。
ネコはその後も特に変わらない。たまに顔を見せて、甘えて立ち去ってゆく程度。こちらに依存する様子など微塵も見せない。
『ワサビ』と名前を付けた。
本当はどこかの飼い猫で、もっとオシャレな名前があって、幸せな日々を過ごしているネコであってくれたらと願っている。