第23回  「白」選後鑑賞

 

「白と黒、あるいは白と他の色」

 

兼題として「白」を出された場合、作句者は何に留意すべきであろうか。例えば「白よりも黒が好き」とか「白黒をつける」とかの使い方の問題であろう。出題者は「白」についての句を要求しているのではないか。「白」と出して「黒」の句を要求している訳ではない。あくまでも「白」なのだ。となると、果たしてどの程度許されるのであろう。ここが案外悩ましいところで、ある先輩は「句の言葉の比重として7割が白で3割が他の色あたりではないか」とのご意見であった。

言い換えれば「句のテーマはあくまでも白であって、他の色を使用する場合、その色は脇役でなくてはならない」という事であろう。くんじろうもほぼ同意見である。

今回は、それを踏まえての選句である。自由吟としては良い句であっても、他の色の比重が高いと感じる句は選外とさせていただいた。

 

※佳作5句。

 

アルテミス型の乳房を好いている  龍せん

 

アルテミスとは狩猟、貞淑の女神でありゼウスとレトの娘でアポロンとは双子の兄妹である。純潔を尊ぶ神でもあり、時にニンフ達を従え狩をしたとされ、月の神でもあり美しい女神像として出土している。また、古い大母神の性格を継承しある時は無数の乳房を持つ多産、豊作の女神として崇拝されたとある。そう言えば「古代何とか展」などで観た記憶もある。作者はどちらの姿を持ってアルテミス型と詠んだのかは定かではないが、この「型」の使い方が独創的で「白」とは一言も書いてはいないが、十分に「白」を想像させてくれる。

 

腹筋がやっと割れたわ白木蓮   岩根彰子

 

腹筋が割れたのである、おめでとう!「割れたわ」と言っているのだから自分自身のことでしかも女性であろう。女性が腹筋を割っていけないわけがない!特にこの冬季オリンピックでの女性アスリートの活躍は凄まじかった。作中の女性、ホットヨガの教室か自宅のリビングでストレッチの最中、近くの公園か庭先から白木蓮のふくよかな香りが漂って・・・と読むのが素直かも知れぬが、景として12~3mもある白木蓮の古木の「腹筋が割れた」のを見ているとしたら、それはそれで滑稽である。

 

洗濯もせねばならない雪女   吉崎柳歩

 

雪女は美しいのである。遭遇をしたことを、もし、他人に話したら凍らされてしまうのである。その神秘な「雪女さん」だって色々と家庭の事情があって、時には洗濯もしなければならない。食事の用意も。それどころか介護の母も居たりして。「洗濯もせねばならない」の「も」がそんなことまで想像させてくれる。で、雪女さん本人が、あの一張羅の白い着物を洗濯している時、一体何を着ているのだろう。あるいは素っ裸で・・・、てな訳ないか。

 

後ろめたい白ときどきどきどきする   青砥和子

 

「後ろめたい白」ってあるのですね。というか「白」って案外後ろめたい色なのかも知れない。白は「無彩色」という色の仲間で「灰色」や「黒」も無彩色である。無彩色なので彩度がない、あるのは明暗だけで、「白」はその「暗」の部分も否定する。その白、特に「純白」に近づくほど、後ろめたく、ときどきはどきどきもさせられる。作者の「白」を見つめる目線は個性的で「ときどきどきどき」のリフレイン、韻の面白さは用意周到である。相当の力量を感じさせられた。

 

搾乳機動けぬ牛の哀しい目   城崎れい

 

搾乳機をつけた牛の列がある牛舎は、まるで工場のようだ。消毒、滅菌されたステンレスの搾乳機の冷たい光の中に、乳牛への優しさはあるのだろうか。チューブの中を勢いよく流れる白いミルクは、子牛に与えられることも稀で、食品として人間に与えられる。そのことを知ってか知らずか、ゲージから一歩も動けぬ牛の目は哀しげで切ない。

そして、この句が表現する「白」もまた哀しみに溢れている。

 

人の句。

本部ですどうぞ 白骨ですどうぞ   加藤当白

 

この「本部」は捜査本部であろうか、捜索隊本部であろうか。あるいは標高8611m、K2を目指す登山隊のベースキャンプなのであろうか。そして、無線で送られた「白骨ですどうぞ」は事件現場の鑑識の声であろうか、救助隊の捜索隊員の声であろうか。携帯が復旧している今、通信は双方向通信である。しかしこの「どうぞ」は片方通信、一方が話すときは一方が聞くだけの無線システム。相手に通話をしてくださいという合図が「どうぞ」なのだ。くんじろうはこの句を登山隊のベースキャンプ対登山者と解した。過酷なアタックの途中、猛吹雪の中で、登山者は自らが白骨と化してしまったことをベースキャンプに無線しているのだ。

 

地の句。

「     !       、     。」   西沢葉火

 

この表現が目新しい訳ではない。俳人、高柳重信の句に、

 

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★?

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−○○●

 

という作品がある。どう理解するかは別として、「白」で出された

「     !       、     。」を鑑賞してみたい。

まず『「』である。これは「でくくることで。『「』から『」』までだというフィールドの指定であろう。『!』の前の空白『、』の前の空白、『。』の前の空白は、文字数として『5』『7』『5』なのである。まさにここに「空白の575」が出現している。では、作者は読者にこの句で何を伝えたかったのであろうか。何も無い。と、してしまいそうだが『!、。』が存在する。何も無いふりをしているのだ。この空白をどう読むかは読者に任せているが『!、。』は作者の発したものだ。『!』は感嘆(感嘆)でまさしくキレ、『、』は読点、『。』は句点である。『空白やさも空白で空白だ』とでもなるのだろうか。

そこは強制的では無い。どう読んでも読者の自由である。「白」という兼題に対して、まさしく破壊的で挑戦的で爽快である。

 

天の句。

豪雪さ生理が七日こないとさ   尾崎良仁

 

大阪に住んでいると、豪雪には縁が無い。1〜2センチも積もれば大騒ぎである。最初この句を読んだ時に「ごうせつさなまりがなのかこないとさ」と読んでしまった。「なんのこっちゃ」と思ってしまったが、再度読むと「せいり」であることに気づいた。それでも「それがどうした」という句であった。そして4回5回と応募句全句を読み直しているうちに、この句が頭から離れなくなった。というより口から離れなくなった。つい口ずさんでいるのである。実際、選者としてはならない行為ではあるが、酔った勢いで飲み友達相手につい「豪雪さ〜」を口にしてしまった。その飲み友達は焼酎を吹き出して大笑いであった。もちろん、天とした後の話ではあるが。

「豪雪さ」の「さ」、「こないとさ」の「さ」がこの句の命である。

「豪雪なんか何さ」の「さ」なのか「生理がこないとさ」なんちゃって「さ」なのか。軽くは言っているが深刻なのである。その深刻な男と女の話と、今にも屋根を押し潰しそうな豪雪との距離感が絶妙である。真っ白な雪の郷、その一部屋の窓際でつい漏れた一言。この一言が男と女の暮らしぶり、男女間の温度まで彷彿とさせる。喜劇のようでもあり深刻劇(新国劇)でもあるようだ。