●芦辺拓 『ダブル・ミステリ 月琴亭の殺人/ノンシリアルキラー』 東京創元社 | 新・駅から駅までウォーキング

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芦辺拓  『ダブル・ミステリ 
   月琴亭の殺人/ノンシリアルキラー』
         東京創元社 2016.12.22発行



ダブル・ミステリ (月琴亭の殺人/ノンシリアル・キラー)/東京創元社
¥2,160
Amazon.co.jp


          


★本の内容(Amazon.co.jpより)


名探偵・森江春策が〈日本のモン・サン・
ミッシェル〉に聳える館で遭遇した殺人を
解き明かす王道の犯人当て「月琴亭の殺人」。
元恋人の死をきっかけに、殺人とも事故と
もつかない不気味な事件の連鎖に気がつい
たジャーナリストの捜査行を描くサスペン
ス「ノンシリアル・キラー」。
前者は縦書きの右綴じ、後者は横書きの
左綴じ、つまり一冊の本の前からも後ろか
らも読めるのです――驚愕の解決篇は、本
の中央にある「袋とじ」を切ってお確かめ
下さい。
本格ミステリの極限に挑む、芦辺拓一世
一代の大仕掛け!


★ここだけの話


『異次元の館の殺人』(2014年8月 光文社)
以来、2年ぶりの弁護士・森江春策シリー
ズです。


この本は2つのミステリが別々に進行し、
最後に1つの解決に収束する形をとって
います。


まず従来通りのタテ書きで「月琴亭の殺人」
が始まり、ここに森江春策がまき込まれて
殺人事件の解決に協力していきます。
また、ヨコ書きで「ノンシリアルキラー」
がスタートし、これは1人の女性のブログ
という書き方をしています。
確かにブログの文章でもありますし、数字
やアルファベット、絵文字などが多用され
るケースには、ヨコ書きのほうが読みやす
いといえます。


過去にも2つの物語が同時進行していく
パターンはいくつもありました。
その場合、交互に書くという形がほとんど
でした。
それを今回の作品では、タテ書き前からと
ヨコ書き後ろからと大胆に二分割し、真ん
中に解決篇を挿入するという方法をとって
います。
しかもこの部分は袋とじとなっていて、
読者に破る楽しみを与えてくれています。
が、さすがに「一世一代の大仕掛け」は
大げさだったように思います。


作者が特に意識したことは、Aの事件の
関係者がBの事件の犯人で、Bの事件の
関係者がAの事件の犯人だとクロスして
1つの解決に導くことにあったのでしょう。


でも相変わらず、森江春策は普通のレベル
の探偵です。
気がつくのが遅すぎます。

時には、読者の方が鋭い読みで、森江春策
の先を行ってしまうことがあるかもしれま
せん。
それはヒラメキや偶然に頼らない、等身大
の一般人の謎解き。
彼がたまたま弁護士で、しかもいろいろな
事件に出くわしてしまう。
こうした設定はこれからも続いていくで
しょう。


また、会話部分は関西弁で書かれています。
東京生まれの自分から見ると、少し読み
にくいものです。
作者はわざと関西弁で書いているので仕方
ありませんが……。
個人的には芦辺拓と有栖川有栖に限っては
我慢し続けようと思っています。
彼らの場合、読み物として、際立っておもし
ろいからにほかなりません。


でも最後に疑問が1つ。
ヨコ書きのブログ部分はすべて標準語で
した。
もちろん会話部分も登場しています。
なのにここは関西弁でないのはどうしてで
しょう。
気にはなります。