●米澤穂信 『さよなら妖精』 東京創元社 | 新・駅から駅までウォーキング

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米澤穂信 『さよなら妖精』
      創元推理文庫  2006.6.16発行




さよなら妖精 (創元推理文庫)/東京創元社
¥802
Amazon.co.jp





★本の内容(Amazon.co.jp)


1991年4月。
雨宿りをするひとりの少女との偶然の出会い
が、謎に満ちた日々への扉を開けた。
遠い国からはるばるおれたちの街にやって
来た少女、マーヤ。
彼女と過ごす、謎に満ちた日常。
そして彼女が帰国した後、おれたちの最大の
謎解きが始まる。
覗き込んでくる目、カールがかった黒髪、
白い首筋、『哲学的意味がありますか?』、
そして紫陽花。
謎を解く鍵は記憶のなかに―。
忘れ難い余韻をもたらす、出会いと祈りの
物語。
気鋭の新人が贈る清新な力作。


★ここだけの話


ひと昔前に旧ユーゴスラヴィアに行ってきま
した。
現在は6つの国とコソボ自治州に分かれて
います。

オーストリアから陸路で南下し、スロヴェニ
ア、クロアチア、ボスニア=ヘルツェゴビナ、
モンテネグロと4ヵ国をめぐりました。
この時はセルビアとマケドニアには行きませ
んでした。


冒頭から何でこんなことを書くのか、と思わ
れるかもしれませんが、『さよなら妖精』の
中の一番の謎解きはマーヤの出身国がどこで
あるかということなんです。

途中、日本とユーゴの文化・言語・宗教の
違いから「日常の謎」がいくつか浮上します
が、それはほとんどおもしろくありません。


彼女が帰国したあとで、出身国を推理する
ところが一番ワクワクしました。
最終的にセルビアだろうと結論づけられます
が、そのあととても悲しい知らせが舞い込む
のです。
高校生たちにはかなりショックだったと思い
ます。


さて、旧ユーゴスラヴィアは第2次世界大戦
のあと、旧王国の領地をそのままに社会主義
共和国連邦を築きました。
カリスマ的なチトー大統領の時代が終わると、
各地で独立運動が発生しました。
もともと言語も宗教も文化も違う6つの国
でしたが、その中心的存在としてあり続けた
セルビアとの間で、独立をめぐって戦争と
なりました。
最後には結局独立国家としてそれぞれが歩む
ことになりますが、まだコソボ自治州だけは
認められていないままです。


今は観光に力を入れていて、スロヴェニア、
クロアチアには大勢の観光客が訪れています。
スロヴェニアのポストイナ鍾乳洞、ブレッド
湖、クロアチアのドゥブロヴニクやプリトヴィッ

ツェなどは日本人にも大人気です。


ボスニア=ヘルツェゴビナとモンテネグロ
には、以前オスマントルコに占領された名残
りの建造物や衣装・風習がありました。
それらの中に、内戦時の悲惨さを残す、おび
ただしい数の銃弾をあびた民家があったり
します。


『さよなら妖精』はちょうどこの時代を、
内戦が続く時代を描いているのです。

私はこの目で凄惨な光景をみてきました。

ソ連が崩壊したのと同様に、ユーゴスラ

ヴィアも分解していきました。


こうした悲惨な内容に、直接踏み込んで

その様子を描いているミステリがあります。

島田荘司の『リベルタスの寓話』で、御手洗

潔が大活躍しています。



またこのあとの作品で活躍する太刀洗万智

が初めて登場する作品で、高校3年生当時

の姿がみられます。

鋭い先読みと冷静さはもうすでに彼女に

備わっていました。



『さよなら妖精』は全体的にミステリとしては、

物足りない部分ばかりです。
しかし、最後のテーマ、マーヤの出身国探し
については個人的に100点満点をあげたい
と思います。

ここだけは特におもしろく感じました。