有栖川有栖『鍵の掛かった男』
幻冬舎 2015.10.10発行
- 鍵の掛かった男/幻冬舎
- ¥1,836
- Amazon.co.jp
★本の内容(Amazon.co.jpより)
自殺か、他殺か---。
誰よりもひっそり生きてきた男の過去は悲し
すぎた。
2015年1月、大阪市中之島の古き良きプチホ
テル「銀星ホテル」で一人の男・梨田稔(69)
が死んだ。
警察は自殺による縊死(いし=首くくり)と断
定。
ところが、梨田が自殺したと納得できない一
人の人間がいた。
同ホテルを大阪での定宿にしている大御所女
流作家の景浦浪子である。
梨田は、5年以上にわたって銀星ホテルのス
イートルームに住み続け、ホテルの支配人を
はじめとする従業員や常連客からも愛され、
しかも2億円以上の預金があった。
梨田が自殺するはずない(=他殺なのではな
いか)と景浦は直観し、その死の謎の解明を
同業者であるミステリ作家の有栖川有栖と、
その友人の犯罪社会学者の大学准教授・火村
英生に依頼した。
火村が大学の入学試験ですぐに行動できない
ために、まずは有栖川有栖の単独調査となっ
た。
が、梨田はまったく身寄りがない上に、これ
までの来歴にかんする手がかりがほとんどな
く、どんな人物像を描けばいいのか、まった
く闇の中で、その人生は「鍵の掛かった男」
としか言いようのないものだった。
生前の梨田を知る者たちが認識していた梨田
とは誰だったのか?
結局、自殺したのか、他殺だったのか。
他殺だとすれば誰が犯人なのか?
有栖川有栖の地道な調査で少しずつ過去が明
らかになり、そこへ入学試験業務を終えた火
村も調査に加わり、思いもしない結末が関係
者全員を待ち受けていた。
★ここだけの話
火村英生シリーズとして、13年ぶりの書き
下ろし作品だそうです。
しかも長編なので、それは楽しみに発売を待
っていました。
事件の舞台が関西。
ソフトな関西弁の行きかう小説のスタイルは
相変わらずでした。
その中で特筆すべきは、作家である主人公の
有栖川有栖が1人の人物の来歴を調べること
に人一倍の頑張りをみせたことです。
いつもは火村英生の陰に隠れているように見
えますが、今回は全然違います。
「やればできる人」に変身していました。
それにしても「鍵の掛かった」ようになかな
か過去を掘り当てられない日々が続きます。
でも地道に歩き回って調べ上げた数少ない事
実。
入学試験が終わり、謎解きに参加した火村に
よって思いもしない結末へと導かれていきま
す。
大阪の中之島といえば、出張で仕事に駆け回
る印象しかありませんでした。
が、冒頭に地図が載っていてとても懐かしく
感じました。
その昔、淀屋橋、肥後橋あたりで汗をかいて
いた頃を思い出させてくれました。
その場所が目に浮かぶように、うまく表現さ
れていました。
『鍵の掛かった男』はトリックめいたものは
全くなく、また動機の部分は非常に弱いもの
となっています。
しかしそれ以上に一人の男の生きざまがしっ
かりと描かれているので、満足のいくミステ
リに仕上がっていると思いました。