連城三紀彦 『女王』 講談社 2014.10.28発行
- 女王/講談社
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★本の内容(Amazon.co.jpより)
戦後生まれの荻葉史郎の中にある東京大空襲
の記憶。
だが彼を診察した精神科医・瓜木は思い出す。
空襲の最中にこの男と出会っていたことを。
一方、史郎の祖父・祇介は旅先で遺体となっ
て発見された。
邪馬台国研究に生涯を捧げた古代史研究家の
祖父は、なぜ吉野へ向かい、若狭で死んだの
か?
瓜木は史郎と彼の妻・加奈子とともに奇妙な
記憶と不審な死の真相を探る旅へ。
だが彼らに立ちはだかったのは、魏志倭人伝
に極められた邪馬台国の謎であった。
衝撃の展開、男女の情愛…連城ミステリーの
すべてが織り込まれた傑作!
★ここだけの話
なんとも形容しがたいほどスケールの大きな
作品です。
邪馬台国の時代、南北朝時代、関東大震災、
東京大空襲と、それぞれの時代の記憶がよみ
がえる……つまりその時自分が生きていたよ
うな記憶を思い出していくという不思議な展
開で綴られています。
主人公・荻葉史郎の祖父・祇介が旅先で遺体
で発見されたことから、彼らの周辺が大きく
変わっていきます。
おもしろいのは、なぜこうした記憶が刷り込
まれているのか、これを解明していくところ
です。
確かに衝撃の事実があったことは間違いあり
ません。
人間の域を超えた、妄想とは違う、憑き物と
も違う、独善的な思考が、この小説全体を貫
いています。
邪馬台国については、作者・連城三紀彦の考
えが随所に出てきます。
例えば、「水行十日陸行一月」の「日月あい
まい説」。
魏の国に対し「わざと邪馬台国の場所を教え
なかった説」。
「卑弥呼だって人の子だ説」。
など、おもしろい考え方が披露されていまし
た。
邪馬台国の場所については、近畿地方小浜-
吉野ルートと九州地方小田浜-吉野ヶ里ルー
トの類似性に気がつくところで終わっていて
作者なりの特定はなされていません。
邪馬台国については、松本清張の作品でこれ
に触れることが多かったですし、高木彬光の
『邪馬台国の秘密』もありました。
また鯨統一郎の『邪馬台国はどこですか』も
楽しいミステリだったと思います。
ここに連城三紀彦が新解釈の名乗りをあげて
すでに10年以上が経過し、しかも昨年亡く
なられてしまいました。
だからこれ以上は望めませんが、どこかで邪
馬台国に関した彼の考えが披露されていれば
よかったのにと思います。
残念でなりません。