●宮部みゆき『ペテロの葬列』集英社 | 新・駅から駅までウォーキング

新・駅から駅までウォーキング

歩けるうちは歩きましょう!

宮部みゆき『ペテロの葬列』
          集英社  2013.12.25発行 


ペテロの葬列/集英社
¥1,890
Amazon.co.jp


★本の内容(Amazon.co.jpより引用)


『誰か』『名もなき毒』に続く杉村三郎シリーズ、

待望の第3弾!


今多コンツェルン会長室直属のグループ広報室
に勤める杉村三郎が主人公の現代ミステリー!
杉村はある日、拳銃を持った老人によるバスジ
ャックに遭遇。
警察の突入、そして突然の拳銃の暴発で犯人は
死亡。
人質は全員無事に救出され、3時間ほどであっ
けなく事件は解決したかに見えたのだが―。
しかし、そこからが本当の謎の始まりだった!
そのバスに乗り合わせた乗客・運転手のもとに、
ある日、死んでしまった犯人から慰謝料が届く。
なぜすでに死んでしまった、しかも貧しいはず
の老人から大金が届いたのか?
そしてそれを受け取った元人質たちにもさまざ
まな心の揺れが訪れる。
警察に届けるべきなのか?
それとも・・・?

事件の真の動機の裏側には、日本という国、そ
して人間の本質に潜む闇が隠されていた!
果てしない闇、そして救いの物語!


★ここだけの話


TBSのドラマでは、主人公の杉村三郎を小泉
孝太郎が、その妻の菜穂子を国仲涼子が演じて
います。
前の2作は、杉村三郎が事件に巻き込まれ、そ
れを丁寧に最後の解決までかかわっていく姿が
描かれていました。
一人の男として、あるいはビジネスマンとして
彼の生きざまには大変共感を覚えました。
大変な状況下におかれても、よくぞ頑張ってく
れたということですね。


こんなに何度も事件に遭遇する人も珍しいとは
思いますが、今回も彼はバスジャック事件の被
害者となります。
問題は救出されたあと、延々と続く事件関係者
たちの葛藤なのだと思います。
彼らの中心となり、すべてに係わりをもってし
まった杉村三郎は、献身的に行動します。
そして過去の作品と同様に、納得のいく解答を
導きだしてくれます。

ここまでは良いと思います。

宮部ミステリの最大の特徴である「人の情」と
いう部分がたっぷりと読みとれます。
でも、このあとがいただけません。
非常にがっかりしました。


なんと杉村三郎は今多コンツェルンを退職し、
妻の菜穂子と離婚、一人娘の桃子と離別の道を
歩むことになってしまうのです。

今まで、わがままばかり言っていた、妻やその
父親。
そこをすべて我慢して、杉村三郎は会社でも家
庭でも頑張ってきたのに救いの道はないのでし
ょうか。


菜穂子の考え方はわからないでもないです。
夫を自分たち一族の呪縛から解放してあげたい
という気持ちもあるでしょう。
しかしどのような状況におかれたとしても、今
回の行動は決して許されないと思います。

全然、別ものです。
でも彼女はほとんど今までと変わらず、生きて

いけるんです。

彼女は今多コンツェルンの庇護のもと、相応の
暮らしは維持できますからね。


悲劇の主人公に転落してしまった杉村三郎。
とりあえずは故郷の山梨に戻るようです。
その後は、私立探偵の仕事を始めるのか、はた
またシリーズはこれで終了してしまうのか、
大変気になります。


私としては、あらゆる制約から解放された杉村
三郎の新しい生き方を期待したいと思います。
彼に全く別のシチュエーションをおぜん立てをす
るために、今回敢えて会社と妻から切り離す方
策に踏み切ったんだろうと考えました。


しかし、かわいそう過ぎます。
こんなにいい人なのに。
杉村三郎を助けてあげたいと思う人は、この世
にきっとたくさんいるでしょう。


そういう終わり方でした。