桑原水菜
『ほうらいの海翡翠 西原無量のレリック・ファイル』
角川書店 2011.12.30発行
- ほうらいの海翡翠 西原無量のレリック・ファイル/桑原 水菜
- ¥1,470
- Amazon.co.jp
★本の内容(Amazon.co.jpより引用)
西原無量は、天才的な若き遺物発掘師。
上秦古墳での発掘調査中、文化庁のエリート職員と
なっていた幼なじみの相良忍と約十年ぶりに再会する
が、その夜、発掘を主導していた三村教授が死体で
発見される。
その死には、上秦古墳から無量が発見した“蓬莱の
海翡翠”と呼ばれる緑色琥珀が、大きくかかわって
いるらしい。
しかも忍らしき男が、その殺害現場から立ち去るとこ
ろを目撃されていて―。
★ここだけの話
昨年末発行された本ですが、どうにも感想が書きづら
くて時間がたってしまいました。
しかし、中身はミステリの内容ですし、もしかしたら
今後シリーズ化される可能性もあります。
ミステリ分野での、これからに期待するという意味も
含めて触れてみたいと思います。
まずタイトルにある「レリック」という単語。
全く初めての言葉なので、意味を調べるところから
スタートです。
すると「レリック」は残存種のことで、動植物で、
かつては広く分布していたが、現在は限られた地域に
のみ生存する種である、と出てきました。
今回の内容は動植物との関連はなく、主に古墳の発掘
ですから、読者にはピンとこないタイトルのような
気がします。
次に考古学や古代史についてです。
物語の中で、あまりにも多くのことに触れるためか、
深く追求して、読者を納得させる部分がありません。
唯一、作者の主張を感じたのは、「天孫は南海の島、
蓬莱からやってきた」というところでしょうか。
一般的には北方系の人々、彼らの神話・伝承が朝鮮
経由で入ってきたとされていますから、南方説を
とっているのはおもしろいと思います。
「その通りだ」とは決して思いませんが、説得力は
少し感じられます。
そしてこの作品の主題は何なのかという事ですが、
物語は「古代史ミステリ」を予感させつつ、実は
中国企業とレアメタルの利権争いなのです。
ここが最初の期待とは違い、がっかりした部分でも
あります。
さらに、主人公・西原無量を補佐する役目の発掘
人員派遣会社に勤務する25才の永倉萌絵が、突然
終盤になって拳法の達人で、上段回し蹴りを決める
ところにはビックリしました。
確かに学生時代に中国留学経験ありと、最初に書か
れていましたが、これを伏線と考えても、途中何も
そぶりを見せず、危険な場面で一気に大技を披露
させるというのはどうでしょうか。
古代史や考古学については、作者の持論の展開も
少なくて、読む者にとって消化不良を感じますが、
三村教授の殺人が国際的な陰謀にまで発展するとは
予想もつきませんでした。
最後になって、この作品のスケールの大きさがわか
ります。
さらに迫力のある追跡シーンや、犯人側と対峙する
シーンなどが矢継ぎ早に登場し、展開が速くなる
あたりはサスペンス風に書かれていたりします。
さて、もしもシリーズ化されるとしたら、次回は
西原無量の得意な分野、古生物の化石の発掘に
からんだ事件ということになるのでしょうか。
それとも、古代史解明の手掛かりとなるような事件
に巻き込まれるのでしょうか。
タイトルで「レリック・ファイル」という使い方を
している以上は、動植物の化石が主軸となるような
気がしていますが、果たしてどうなるでしょう。