●島田荘司『進々堂世界一周 追憶のカシュガル』新潮社 | 新・駅から駅までウォーキング

新・駅から駅までウォーキング

歩けるうちは歩きましょう!

島田荘司『進々堂世界一周 追憶のカシュガル』
               新潮社 2011.4.30発行 


★本の内容(本の帯より引用)


若き御手洗潔が遥かな「異郷の扉を開く」。

京都大学北門前の珈琲店「進々堂」で語られる物語は
思いがけぬ謎を孕み、鮮やかな結末を導きだす。
時空を超える、数奇な四編のミステリー。


時は1974年、京都大学医学部に在籍していた御手洗潔は、
毎日、午後三時に、進々堂に現れた。
その御手洗潔を慕って、同じ時刻に来るサトルという
予備校生がいた。
放浪の長い旅から帰ったばかりの御手洗は、世界の
片隅で目撃した光景を、静かに話し始める……。

砂漠の都市と京都を結ぶ幻の桜、曼珠沙華に秘められた
悲しき絆、そして、チンザノ・コークハイの甘く残酷な
記憶……。

芳醇な語りが、人生の光と影を照らし出すミステリー。


進々堂世界一周追憶のカシュガル/島田 荘司
¥1,575
Amazon.co.jp


★ここだけの話


名探偵御手洗潔の登場する短編が4本あります。


まず「進々堂ブレンド1974」は、このシリーズの導入部で
御手洗潔とサトルの出会い、そしてサトルの初恋の物語
が甘酸っぱく、少し悲しく語られています。
ヴィックス喉スプレーの味が、チンザノ・コークハイと
忘れられない過去を振り返らせてくれます。


2作目の「シェフィールドの奇跡」は以前カッパ・ノベルズ
に収められていた作品で、イギリスのシェフィールドの
街で体験した話です。
IQ50の青年が重量挙げで人命を救い、その人の
コーチにより全英チャンピオンになるという、ワクワク
する内容です。


3作目の「戻り橋と悲願花」は、LAで知り合った韓国人
の戦中・戦後の日本と韓国での辛い過去の出来事を中心
に、なぜアメリカ西海岸に曼珠沙華、別名は彼岸花が
咲くようになったのかについて語られます。
西武池袋線の高麗駅に行ったことはありますか。
巾着田に真っ赤に咲きそろう曼珠沙華の群生を見たこと
がありますか。
9月のお彼岸の頃、それは見事に一面が赤い花で彩られ
ます。
素晴らしいので、是非一度ハイキングを兼ねてご覧に
なってはいかがでしょうか。
朝鮮から日本へ、そしてアメリカへと渡っていくこの花
の運命に驚愕してしまいます。
それから、彼岸花が悲願花としてタイトルになっている
ことも。
時間と場所、つまり時空を超えた壮大な、しかしどこか
せつない物語です。


最後の作品、「追憶のカシュガル」はまだ行ったことの
ない遥かな街、カシュガルがどんな歴史をたどってきた
のか、御手洗の案内をする一人の老人の話によって
明らかにされていきます。
さらに感激したのは、桜…ソメイヨシノにまつわる内容
です。
ソメイヨシノについては、テレビでも春になると、よく
採りあげられるテーマなので、それなりの知識は誰でも
持っていると思います。
いつの時代、どこで作られたか、ということは知って
いても、どうして広まったか、については今回この本を
読んで初めてわかりました。
日本の桜は、さくらんぼの実ができない種類なので、
簡単に種をまいて増やすことができないのです。
南北に長い日本列島の隅々まで、桜の木を植えることに
大変な苦労があったことが偲ばれます。
物語の最後で、御手洗潔は老人を看取ります。
老人は、日本人に会えて良かったと思いながら亡くなり
ます。
カシュガルと日本を結ぶ物語はこうして終わります。


島田荘司はミステリ界の大御所です。
昨年発売された「写楽 閉じた国の幻」で「このミス」
第2位を獲得しました。


でも、島田荘司の大きな功績の1つは、若手作家の
発掘、デビューを積極的に行なったことにあります。
今、一流の推理作家となった綾辻行人、我孫子武丸、
司凍季、霧舎巧、歌野晶午、法月綸太郎など島田荘司
なくしては、デビューすらできなかったかもしれません。
上記の作家に影響を与え続けているのもさることながら、
伊坂幸太郎が自身の著書やインタビューで島田に大きな
影響を受けたことを事あるごとに書いています。


島田作品は年内に何冊か発売される予定と聞いています。
高額なものもありそうなので、お金をよけておくことに
します。


島田荘司の作品は大好きです。
そして、もちろん御手洗潔も大好きです。
なにしろ1981年の「占星術殺人事件」以来のお付き合い

ですから。

かれこれ30年にもなるのだなぁ。


ペタしてね