●北森鴻『虚栄の肖像』文春文庫 | 新・駅から駅までウォーキング

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北森鴻『虚栄の肖像』文春文庫 2010.9.10発行


本の内容(Amazon.co.jpより引用)


花師にして絵画修復師の佐月恭壱。二つの顔を持つ佐月の元に、肖像画修復の報酬が古備前の甕という奇妙な依頼が舞い込む表題作他、藤田嗣治の修復をめぐり

昔の恋人に再会する「葡萄と乳房」、女体の緊縛画を描いた謎の絵師を追う「秘画師遺聞」の全三篇を収録。絵画修復に纏わる謎を解く極上の美術ミステリー。

虚栄の肖像 (文春文庫)/北森 鴻
¥580
Amazon.co.jp


★ここだけの話


著者の北森鴻は鮎川哲也賞、日本推理作家
協会賞を受賞、本格ミステリ作家クラブ監事と
して活躍していたが、2010.1.25に48歳で
亡くなられた。

大変残念だ。
もっともっと彼の本を読みたかったのに。


『虚栄の肖像』の主人公は、東銀座で花師と
絵画修復師の2つの顔をもつ佐月恭壱。
このシリーズは文春文庫で2冊目となる。


今回、主人公の過去が少しずつ明らかに
なってきた。
父のこと、芸大時代の恩師のこと、その娘の
倉科由美子と恋人関係にあったことなど。
ミステリとしての1篇ずつの内容だけでなく
登場人物の人柄、生い立ちが非常に気になる
内容です。


また画家、絵画、絵画修復に関する膨大な
専門的知識を持っていることにびっくりします。


このシリーズのほかに宇佐見陶子を主人公と
した旗師・冬狐堂シリーズでは、陶磁器や
仏像など骨董がメインに登場。
(講談社文庫で2冊、文春文庫で2冊)


異端の民俗学者、蓮丈那智フィールドファイル
シリーズでは民俗学の豊富な知識を駆使。
(新潮文庫で3冊)


三軒茶屋の路地ウラのビアバーのマスター
工藤哲也が主人公の香菜里屋シリーズは
多分話は完結していそう。
(講談社で4冊、うち3冊は文庫)


一見それぞれのシリーズが独立しているように
見えるが、実はすべてに関連がある。
佐月も宇佐見も蓮丈も工藤も、ほかのシリーズ
に互いに登場しているのだ。


今回はたびたび「冬の狐」ということで
宇佐見陶子が結構重要な役回りで登場する。


もちろん上記のシリーズ以外でもたくさん

本は書いている。

食べ物や京都に対する思い入れもかなりある。


いずれにしても歴史学を学んだ著者だから、
絵画修復や骨董や民俗・風習に守備範囲を
広げて、割合地味な世界をミステリに取り込ん
できた。


読者としては、本を1冊読むごとに、なぜか
自然と詳しくなっていく。
北森鴻先生に勉強を教えてもらっているような
気分である。


蓮丈那智(テレビドラマでは木村多江が演じて
いた)にもう一度お目にかかりたいと思うが、
それもかなわぬこととなってしまった。


とても残念です。
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