≪ポンペイ壁画展≫を「六本木森美術館」に観に行った。ポンペイに行く前に現物を見れたのは幸いだった。此処でも、ポンペイのフレスコはそのザラザラしたイメージとは違う、「ストゥッコルストロ」と呼ばれる平滑なものであり、かつその艶、光沢の正体につき、蝋によるものか、「磨き」によるものかの議論があった等のことを述べたが、正にそれらのことが確認できる画面であり、今後の実作研究に大きな資料となった。ただこれらのことはやはり図録では詳しく追究されることなかったが、実作者ならぬ執筆者では止むを得まい。
筆者がそれより引っかかったのは美術館そのもののことである。ことは筆者の最近の関心事であり、早く見たい、見終わったあとは余韻を抱いて早く家に帰りたいと思ったが、そのどちらも叶わないような、入口と出口すら判然としない猥雑な箱ものと言う印象しかなかった。
同美術館の有る「六本木ヒルズ」は「複合商業施設」とやらで、最初からそういうものとして計画されたようだが、元々、美術館も集客の一環との発想の、「芸術」とは異質の世界の人種が参入したらしく、従来の催事などからはなるほどどその「ポピュリズム」に沿ったもののように感じるが、それにしても、こういう芸術の原点、人類の遺産のような展覧会を、52階の高層で、有象無象でごった返すゴールデンウィークにやって良いものかどうかぐらい思いつかないのだろうか?
先ず、どこが入り口か分からない。お洒落な店や、凝った設計の建築や、周辺のイベントなんて、相当の関心を持った展示物を目途に訪れた身にはどうでもよいのである。道は複雑に入り組み、階段の上りも多く、ガンガンヴォリュームをあげた音楽イヴェントが有り、人の波をかき分けるように進む。それらしい窓口に来れば展望スペースに行く団塊と一緒で列ばされる。やっと上った52階も別のアニメのイヴェントと展望スペースが混在し、展覧会の会場は直ちに分からない。結局入場まで4回も警備員や窓口で聞いた。
美術館の品位とか環境とか思いもつかないようだ。こちらは二度と行かなければよいが、それでは済まないこともある。52階は高層である。予想される首都直下型大地震の揺れは増幅される。そんな時、「人類の遺産」が取り返しにつかない被害を受けたら貸出国にどう詫びるのか?
今後複合商業施設に美術館は含めないか、それにふさわしい催事だけをやってもらいたい気がする。