Ψ筆者作「アルカディアの水辺」 M15 フレスコブオノ

本来のフレスコは、顔料を水だけで溶いて描き、メデューム(糊)は一切使わない。そのままだと当然顔料は簡単に剥げ落ちるが、下地の石灰質の化学反応により、表面を薄いガラス状の膜が覆い顔料を閉じ込める。つまりは、絵が描かれた石灰石に戻ることになる。これにより永久的な安定性が生まれ、色彩の鮮やかさも維持される。
しかし大きな問題点がある。表面の塗膜は下地が水分を放出する過程で形成されるので、当然下地が乾いていないうちに描かねばならない。それ以前に、石灰と砂で作るスタッコの調合や塗り方が大問題である。これは、壁画風の持ち味を生かしたいので、単純に平滑に塗ればよいというものでもなく、その左官作業も、本来何年も修業するメティエでもありとても簡単にはいくものではない。
その「速戦即決」、時間との闘いを解決する方法は二つある。一つは「アセッコ」と呼ばれる、メディーム(多くはカゼイン糊)を使う乾式フレスコの併用、または乾式だけで描く方法、もう一つは画面を一日で出来る仕事(ジョルナータ)毎に区切って、その部分をその都度仕上げて行く方法である。ジョット等大画面のフレスコ古典絵画はそのようにして描かかれた。
しかし一度はその速戦即決で一日でどれだけ描けるか、その正道フレスコでやってみたい。上掲作品は一日で描いたものだが、描き込む必要多々だが「意地」を通した。