記事全文(太字処置は筆者による)
2013.12月6日付朝日新聞朝刊一面
≪日展書の不正認める 第三者委 入選を事前配分(見出し)
公募美術団体「日展」の審査を巡る不正疑惑を調査していた第三者委員会(委員長・浜田邦夫弁護士)が5日、報告書を発表した。発端となった2009年の第5科・書の篆刻(てんこく)部門の審査で、入選者数を事前配分する不正があったと認めた。しかし、他の科についての事実認定は限られたものになった。
調査は、09年の書の審査関係者のほか、09~13年の全科の関係者から聞き取りなどを実施。この結果、09年の篆刻部門については会派別の入選者数を前年と同数にした事実を認めた。
他の年の書の審査についても会派を考慮した審査があったと推定。また、会派から出ている審査員に作品を事前に見せる慣行があり指導料が多額になりそうだとし、入選者や特選に絡んだ金銭授受の慣行がないとは言えないと指摘した。
日本画、洋画、彫刻、工芸の4科については、不正審査は認められなかったが、審査員に自作写真など事前に送る例があることは認めた。
一方、「再発防止策」として、「審査員就任後は事前指導はしない」「謝礼の禁止」「外部審査員の導入」など提案。組織に関しては「長老支配」「芸術家としての評価と役員の地位の連動」などの問題点を指摘し、改革のための委員会の設置を提言、「措置を講じない限り日展の将来はない」と断言している。報告書を受け取った寺坂公雄理事長は「真摯に検討する」と話した。》(以上1面)
≪書の不正実態浮き彫り 他分野追及に甘さも(37面見出し)
日展審査の疑惑を調査した第三者委員会は、書道で「長老支配」や「金銭授受」の慣行があると厳しく指摘した。一方、他分野への切り込みは甘く、日展全体の信頼回復につながるかは不透明だ。(37面中見出し)
5日公表された報告書は朝日新聞が最初に疑惑を報じた書道について「芸術院会員を頂点にしたピラミッド型組織があり、トップの発言が強い長老支配が出来上がった」「金銭授受の慣行も過去のものとはいえない」と指摘。2009年書道の篆刻(てんこく)部門の審査で「天の声」を発したとされる日本芸術院会員の古谷蒼韻顧問(89)について、本人が否定する中であえて「書の頂点に君臨しており(中略)具体的な介入がなかったと否定し去ることはできない」とし、80歳以上の顧問らが審査員選出などで強い権限を持ち続けることを問題視した。委員の一人は「書道は金がものを言う世界で特殊だった」と話す。
一方、書道に続いて疑惑を報道した洋画分野については甘い姿勢が目立った。書道の聞き取り調査は審査員ら18人に上ったが、洋画など4分野は合計で6人だけ。洋画では寺坂公雄理事長や中山忠彦前理事長の所属会派に疑惑も報じたが、報告書には具体的言及はなかった。浜田邦夫委員長は5日の記者会見で1か月弱でやることべきことはやった」と釈明したが、100年以上の歴史を持つ日展にはびこる悪習を一掃するには調査期間が短すぎた。今後の舞台は第三者委が設置を求めた日展の「改革検討委員会」に移る。①審査委員の事前指導、謝礼、作品写真送付の禁止②外部審査員の導入③会派代表の審査員起用の禁止④違反発覚時の審査員資格や入選の取り消しなど、第三者委が指摘改善策をどう具体化するのか。「お手盛りで仲間内を回しているような印象を与える」と指摘された大臣賞の選考をどうするのか。信頼回復に向けて課題は目白押しだ ≫
≪「今しか」告発決めた(中見出し)
日展の入選者を有力会派に事前配分したことを示す資料を朝日新聞社に寄せた書道家が、内部告発に至った経緯や今の心境を語った。◇ 「私は長く書道界に身を置き、厳格な階級制度や入選を金で買うシステムを当たり前のように受け入れてきた。それでも「日展」顧問の指示で入選数が決まる」という審査員からの手紙や入選数配分表を手にした時は驚いた。これまで証拠を残すことはなかったからだ。
日展幹部に気に入られるか否かで入選数が決まる。「これが自分が目指した芸術なのか」。改めて書道界の悪習を目の当たりにし、心が揺れた。告発すれば人生を棒に振る。1、2年悩んだ。日展にはびこるウミを出すには、証拠を手にした今しかない。今やらなければ「不正の慣習」は永遠に表に出ない。そう思い、内部告発を決心した。
朝日新聞の報道後、犯人捜し始まった。今の書道会幹部で不正審査を悪いと思う人はほとんどいない。第三者委の調査で断罪されても、少し時間が経てば元に戻るのではないかと不安だ。私は告発したことを家族にも話していない。墓場まで持っていくつもりだ。日展がこれほど大きく揺れたことはない。ここで変わらなければ、日本に本当の芸術は育たない。幹部に謝礼を包み、気に入られようとする作家だけが増えてしまう。日展が変わる最初で最後のチャンスだ。≫