Ψ筆者作 「昔日の陽射し1」部分  F30  油彩 
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 中原中也の、二才で夭逝した息子文也を詠った「動物園」という詩に「ほんにお前もあの頃はこの世の光のただ中に立って眺めていたっけが…」という慟哭の一節があるが、大宇宙、悠久の時の比べれば人の一生など一瞬の閃光にも似たもの。だからその一瞬の、この世の光のただ中におかれているその刹那がどれだけのウソもハッタリもない真実とか美とか価値とか呼ばれるもので満たせるか、その分量でその人、その人生の意義が決まるというもの…逆に、そんな一瞬だからこそ、どんな悪を為そうと、罪や恥に満ちようと、欲や本能に支配されようと、何をどうやってもどうってことはない、身は躯となりて後は野となれ山となれ、などと開き直りの一理も。
 しかし少なくても、創造に携わる者は前者の気持ち無くして生きることはできない。これは理屈ではなく本能というものだろう。ましてや、戦争、業病、震災、恐慌、諸々未成熟な社会、混沌と生存の不安におかれた、「短命」が当たり前だった時代、芸術家はまさにこの世の光におかれた一瞬、命と競争しながら価値を求め、必死に自己実現に努めたのである。 
 
以下は佐伯を中心とした前後30年以内に生誕年があり、かつ40歳未満で早世した画家・彫刻家である。その死因について、※印のものは結核・肺疾患によるもので多くが喀血を伴っている。またこれ以外にも一部の結核には神経衰弱や精神疾患を伴うものが見られる。医療の未成熟や栄養摂取の問題あるにしても、当時の「不治の病」たる結核の業病性を痛感させられるデータである。(没年齢については没年から生誕年を引いた単純計算による) 
※荻原守衛・彫刻  (1879~1910.31歳) 
※青木繁      (1882~1911.29歳)     
※中村彝      (1887~1924・37歳)
※中原悌次郎・彫刻 (1888~1921・33歳     
 岸田劉生     (1891~1929・38歳) 尿毒症
※田中恭吉     (1892~1915・23歳)
 古賀春江     (1895~1933・38歳) 進行性麻痺(詳細不明)
※村山槐多     (1896~1919・23歳)
 前田寛治     (1896~1930・34歳) 鼻腔内腫瘍
※佐伯祐三     (1898~1928・30歳)      
※関根正二     (1899~1919・20歳) 肺炎
※横手貞美     (1899~1931・32歳)
 三岸好太郎    (1903~1934・31歳) 心不全・胃潰瘍
 靉光       (1907~1946・39歳) アメ-バー赤痢(戦病死)
 野田英夫     (1908~1939・31歳) 脳腫瘍
 松本竣介     (1912~1948・36歳) 気管支喘息 
 
(つづく)