画像削除

 西洋絵画史中に、大雑把に言えば三つつの「革命期」を見ることができるのではないか。一つは絵画が、モティーフから市場メカニズムに至るまで、創り手、受け手とも従来のそれらが、画家個人レベル、市民レベルに移っていったということ、これは絵画の社会的側面。
 もう一つは古典主義から印象派へと、造形上、表現上の価値観に全く新しいものが出てきたということ。最後はこれが一番古いが、油絵の具(顔料を油性メディウムで溶くもの)の登場という純素材の問題である。
 この最後の問題については、止むを得ないことであるが、制作実務の経験が無い人が多い学研畑では、前二者に比し正面から論じられことが少ないように思う。
 これが何故革命的かと言えば、油絵具の登場により絵画の描き方が全く違ってきたからである。例えば絵画の英訳は一般的には「painting」となるが、これは着色剤を塗る、筆や刷毛で塗りたくる、つまり、描画(デッサン)、面塗りと着色を同時に行う、「ベタ塗り」の概念に近い。とするなら油彩以前の画法、のみならず油彩登場後も伝統的に行われていた一部西洋画の画法とは明らかに違う。

 古典画法の造形上の基調は厳格なフォルムとトーンの把握にある。これを合理的に優先するためには色彩を分離させて処理したほうが都合が良い。ここにグリザイユ、カマイユ、ヴェルダイユなどのモノクローム画法が生まれる。しかもこれは、万物の表面に自然に、あるいは人為的に「薄く施された色彩」と、油絵具の重厚な物理的組成との密度の格差を、自然に、その状況に則して克服することができる。
 また、油彩以前の素材は速乾性なので微妙なトーンがつけられないので、このトーンづけとフォルムの描き起しのための「ハッチング」は、「線描」なので当然ベタ塗りではない。卵テンペラの一技法ではハッチングを容水性ホワイトで行い、着色は油性透層で行うという完全な「分離画法」もある。
 つまり、「painting」とは、油絵具でフォルム・トーンの描画と着色を同時に行うという、ベタ塗りが常識となった油絵具登場以降の概念であり、元々の西洋画はそのペインティングとは趣を異にする。
 したがってそれは、「drawing」、「painting」、「glazing」、「hatching」などいろいろな意義があり、仕上がった作品はフランス語の「tableau」と言えば正確になるだろう。 

 上掲示拙作は、風景画ではあまりやらない、油絵具による、モノクロ下絵である。無彩色ではないのでカマイユと言った方が良いだろう。狙いはモノトーンでの雰囲気作りと本制作でのリアルな着色の効果。