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Ψアレキサンダー・ネフスキー寺院の実景。(撮影筆者)ここの地下に国宝級のイコンが収められている

ブルガリアの首都ソフィアの中心部にアレキサンダー・ネフスキー寺院というブルガリア正教の教会がある。
 金色のドームを戴くバルカン地方最大級の重厚なビザンチン様式の建物である。ここの地下が世界有数のイコンの宝庫なのだ。

 イコンとは、ギリシアからロシアに至る東方キリスト教会や、民衆の精神生活の上で今日においてもなお重要な地位を持って生き続ける、聖母マリアやキリストに関する聖像画をいう。
 正確なイコンの定義は後記するが、今日現地においてもいわゆる「イコン風絵画」から土産物のようなものにまで広く定義されているようである。
 拙作においても現地の人が見たら「なんじゃ、こりゃ」と言われるかも知れないが一応の「図像学」に従い、下地作りからテンペラという描画法も踏襲、デフォルメによる多少の「らしさ」も心がけたので括弧つきでイコンを名のらせていただきたい。
 その技法や素材を勉強するには何よりも自分で作ってしまうのが一番良い。テンペラは油彩と供に、もう一つの私のライフ・ワークとなってしまった。

 イコンは、一定の図像体系と技法に従い、同じテーマ、即ち、生神女福音、聖母子、十字架のキリスト、三位一体、等々が、繰り返し創作される。したがって、作家の作為や思想はあまり介在する余地なく、その意味ではオリジナルも模写もない。国宝級のそれも、街角で売られているものも、論理的にはみんなオリジナルなのである。
 私は、彼の地で本物のイコンに触れ、その未曾知の美の洗礼を受けた。独立した芸術的オブジェとしての美しさである

本来イコンは、教会内の、祈りの場と、司祭が祭儀を行う「至聖所」を仕切る、イコノスタスと呼ばれる壁面に供えられるものである。因みに、イコノスタスの何処にどのイコンを供えるかも決まった原則がある。キリストやマリアは中央の王門近く、遠くなるにつれ福音書記官、天使、聖人、預言者、聖職者などと続く。至聖所内は天国、こちら側が現世、イコノスタスはそれを仕切る壁ということになる。