いつものように兄を習い事を送り届ける車内。
いつものように私は、後部車席で揺られていた。
『ピアノてん…やってみる?』
始まりは、母親の一言だった。
『あ、うん。』
車内でそれとなく返事したが…
何故か心がザワつくのは、本心でしたいと感じていなかったからなのかも知れない。
よく祖父もピアノを弾いてくれた
その姿を1番近くで見聞きしていた兄は、とてもピアノが大好きになった
母親は、兄と同じように成長する私を望んでいたのかも知れない。
私は、心はいつも教えてくれるのに、時々そのサインを無視してしまう。
いつも書き始めのノートの字が美しいように
習い始めは、綺麗に感じる
ピアノも同じ
弾けるようになると何とも爽快で気持ちよくて
楽譜を見ずに弾けるようになるとまた、更に心地よい
けれども、練習がとにかく嫌で仕方なかった
『やめる。』
『行くって言うたやろ!!!』
高学年に差し掛かる頃、毎回、ピアノの稽古に行く前は、母親と大げんかになる。
「うん(いく。)」と承諾したのは、自分なのだけれども
いつの世界も道を歩むには、その道に入らないと解らないもの。
椅子にしがみついて掴んでピアノのお稽古に行こうとしない私を
母親は、力づくで椅子からひき外してレッスンに何としてでも連れて行こうと言う戦いが数分続く。
まるで漫画が実写になったような戦いが毎回。
いつもピアノの先生宅に着く頃には、泣きべそでまだ目には涙が浮かんでいる。
『こんばんは。』
ピアノの先生と聞くと女の先生を思い出すだろうが、珍しく男の先生だった。
金色に輝くメガネの縁取り指には金色の分厚めの指輪をはめている…どこかお洒落な先生だった。
玄関を入ると、何とも言えない本の匂いとピアノの匂いがやってくる。
薄暗い部屋に通され
厚めの立派な木の戸を開き
何とも言えない宮殿のような音符に染まった
本まじりの含めた臭い
紅色のベールの下をめくると真っ黒いピアノと白黒の鍵盤
上にはキラキラとシャンデリアが薄暗く私を照らす
練習しないままいくから勿論、弾けない。
レッスンに行くも、自宅の練習をそのレッスンでする。
そして…
始まる。
スリ…
スリスリ…
スリスリスリ…
まだ自分の筋肉がついていないふんわりした太腿をそのレッスン中
…触られ続ける
スカートだろうが、ズボンだろうが…関係ない。
その頃、小学生だった私には、先生の行為に違和感を感じつつも穏やかに接してくれることで拒否することが出来なかった。
弾き続けて何となくバイエル(ピアノの本)を卒業し
何となく高学年になり、辞めていた
どれくらい経ったのだろう。
母親の実家に行った際、母方祖父が何気なく、自分の足に触れた時だった。
『やめて!!!』
後にも先にもあの時の違和感が蘇って拒否して逃げたのはこれが最初で最後だ
私は、初めて気づいた。
この自分の体の一部には既に恐怖が植えつけられている記憶が…生きているということを。