『へえー、甘いもの好きなんだ。男の人で珍しいやんね。』
『そうやねん。お酒を飲めそうな顔をしてるから、ギャップが良くて。』
Mは嬉しそうに話す。
私の頭の中では、ある顔がチラついていた。
42歳、ショートボード、大手電気メーカー、お酒弱く甘いもの好き、彼女から聞く、その人のクサいセリフ・・・
ただ、俳優のS似という所が引っかかる。私から見たらただの気持ち悪いカマキリだが、恋は盲目というし、好きならそう見えるのかもしれない。
『えーっと、その人の会社って・・・P?』
『うん、よく分かったね~。あ、そっか。大手って言ったらそうなるよね。』
私は、顔を歪めた。
『その人って・・・Aって名前じゃないの?』
Mの顔がパッと明るくなり、目を大きく見開く。
『え?知り合いなん?てかそんなにあの人顔広いの?』
彼女は彼の名前を聞き、嬉しそうだ。そう、恋している時は・・・名前を聞くだけで嬉しいものだ。
私は追加のビールを頼んでから、冷静に、分かりやすく、AがCと私にして来た事を話した。
『え?どういう事?てかそんな変な人なの?』
『そうだね、私はそう思う。』
Mはあまりの突拍子もない話に、口をポカーンと開けてるだけだった。
『恋愛は自由だから、Aの事が好きなんだったら、今のまま頑張ったらいい。だけど、多分Aは既婚者やで。夜とかメールとか電話無いやろ?』
Mは考え込んでいたが、ふっと私の方に顔を向けた。
『そういえば。電話はほとんどした事ないけど、メールはそうかも。それに・・・』
私は無言で彼女を見つめた。
『その名前だけ利用されていたYさんって、既婚者だよ。』
『やっぱり、そっか。で、どうするの?』
『うん、ショックだけど。悲しいけど。そんな変な人とは付き合いたいと思わない。』
Mは正常な考えを持った女性だった。
しかし、私はこれまでの経緯、そして明らかにAからバカにされて来たこれまでの怒り、そして酔い・・・。
このままで終わらせる気は無かった。
時刻は夜10時前。
この時間に電話してもAはきっと出ない。
しかし、他に何人女がいるかは分からないがCを失った今、Mを邪険に扱うとは考えにくい。
『ねえ、今Aに電話して?』
『え?私、普段からそんなに電話しないから、不自然やし。』
『大丈夫、とりあえず電話してみて。』
Mは緊張した顔つきで、電話をかける。
案の定Aは電話に出ない。
すると、すぐにメールが返信されて来た。
『どうしたの?電話?何?』
と短い文章。
『ごめんね、こんな時間に。どうしてもAと、話がしたくて。』
と、私がメールを打つ。
『え?でも今ちょっと電話は無理かな。』
『そっか・・・(T_T)私、今どうしてもあなたに伝えたい事があって・・・短い電話でいいの。ダメかな?』
それからAの返信は無かった。
『やっぱり、普段そんな電話で話してないもん。やっぱり無理やって。』
『大丈夫、絶対電話はかかってくる。かかってきたら、まず出てね。で、話したい人がいるとか何とか言って、私に代わってくれる?』
『いいけど・・・どうするの?』
その時、テーブルの上の彼女の携帯が激しい振動と共に、この時流行りの着信音を鳴らし始めた。
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