以前にも書いたと思うが。
柳生心眼流の皆伝の形を7年目で教わり、その意味を理解したのは10年目だった。
一手七本あって三手。
ざっくり言って逆突き、順突き、打ち落としだ。
変化の兆しは三手目の「打ち落とし」の形から起きた。
腕を振り落とすと同時に勝手に腹が引き上がりだした。
続いて一手目「逆突き」の形で体が動き出した。
ある日の稽古中、みぞおちの奥の方で何かがひっくり返るように動いた。
みぞおちの高さで体を捻るということがこの流儀にとって重要だということは、3年目落の形を学んだときから知っていた。
それがさらに体の深い部分から起きた。
何が起きているかはすぐにわかった。
ドーム状でドーナツ形をした横隔膜の脊柱寄りの部分が姿勢反射による緊張を起こしていて、それをかなり強引に引き抜いた。
当時の知人と練習していて、急に私のパンチは強くなった。
嬉しくて笑った。
しかしその後私の背骨は崩れ落ちた。
30過ぎて側弯症の子供のように背骨が曲がった。
それはそうだ。
体を支えるための姿勢反射の緊張を無理やり引き剝図はがしたのだから。
立っているだけで呻き声をあげ、脂汗がでて止まらなかった。
ここを脱するために必要なことは、胸郭と骨盤をつなぐ筋肉の張力を引き上げなくてはならない。
ということはすぐに察しがついた。
そして胸郭と骨盤をつなぐ筋肉とは・・・。
腰腸肋筋(反る筋肉、図はググってね)
腹横筋(腹を引っ込める筋肉、図はググってね)
内外腹斜筋(前屈しながら捩じる筋肉、図はググってね)
腹直筋(いわゆる6パックスだけど、腹部の上下の張力をコントロールするための要になる)
そして腰方形筋。
もうこれは当時の私には腰方形筋の張力を上げることこそが答えになるというのは即座にわかった。
ただし、張力を上げる、胸郭と骨盤を引き付ける力を強くすることが答えになるということを確信するためには、構造医学でいう面圧構造を知る必要があったことは事実。
ただし腰方形筋を使えばなんでもいいのではなく、それを心眼流の全ての形の中から導き出すという制約が私にはあった。
私の答えは皆伝のひとつ前の形である小具足ヶ条の形。
私の師匠はインチキだったから(笑)、胴体部分をどのように動かすかなどという発想はゼロで手足をジタバタ動かすだけだった。
それで脊柱の構造と腰方形筋の働きを考えながら動きを変えた。
で、2、3週間で痛みからは脱した。
余談だけど後に私はこの小具足の形を師匠の前でやってみせた。
激怒するのが普通なんだけど、師匠は喜色満面で私の真似をした。
先代が私のように動いていたことを思い出したらしい。
馬鹿馬鹿しい。
しかし、このときの経験が後にクンダリーニヨガを学んでサットクリヤを解くときの大きな財産となった。
横隔膜の脊柱寄りの部分の緊張を抜くこと、そしてそこにスシュムナー(中央気道)が通っており、この緊張がスシュムナーの働きを妨害する。
この緊張がいわゆる「結節」のひとつなわけだ。
あの経験が心眼流の稽古を始めて10年目だったというのは今思うに示唆的だ。
何かひとつのことを学んで自分のものにするためには10年の年月がいる。
私のヨガクラスにはいろんなものを学んでいる人間が訪れるが、10年以上練習を重ねている人間は少ない。
そして10年積み重ねている人間はやはり違う。
と思わされる。