遠きウクライナの地では、遂に一般市民の住む住宅地、病院、学校にも砲撃が加えられる様になった。そして砲火は原子力発電所をも襲う。
彼の地で平和裏に日々の生活を送っていた市民は突然生死の境を彷徨う状況に追い込まれた。
一体彼らに何の罪があるというのだ。彼の国も、欧州の国々もロシアに攻め入る気など到底無いのに・・・
北の熊は欧州の軍事同盟に東欧の国々が加入したことに眉を潜め、ウクライナもその軍事同盟に加入することを恐れて戦をしかけたと言う。
猛々しい巨熊は実は臆病で自分のテリトリーに迫る欧州の軍事同盟国に怯えている。
拡大する欧州の軍事同盟の輪はロシアの軍事力を恐れてのことだというのに・・・
滑稽な理由を単に発し戦は始まり、平凡でも穏やかな日々を送る市民を生死の境を彷徨う状況に追い込んでいる。
どうかこの事態が早く終る様にと思いながら、しかしそれは猛々しい巨熊が勝利を収めるということなので胸が詰まる。
閑話休題
はい、それではいつも通リ本の紹介です。
本日紹介する作品は、前回に続いて宇江佐真理さんの代表的時代小説シリーズ『髪結い伊佐次捕物余話』から12巻、『名もなき日々を』を紹介しようと思います。
それではいつも通リあらすじ紹介から行くとします。
【 あらすじ 】
時は江戸。町奉行所同心不破友之進、龍之進の手下を務める髪結い伊佐次の息子で絵師の伊与太は師匠の歌川豊光が突然亡くなったことで身の振り方が決まらず困っていたが、葬儀に参加していた売れっ子絵師の歌川国直に声を掛けられ弟子入りが決まる。一方不破友之進の娘・茜は小藩の松前藩に別式女(主君またはその家族の護衛に付く女武芸者)として奉公していたが藩主の若君に好意を向けられ大弱り。髪結い伊佐次の周辺人物の先行きに大きな変化が訪れる・・・
【 解説 】
①この作品の著者は宇江佐真理さん。
この作品シリーズの著者は時代小説作家で2015年に亡くなった宇江佐真理さんです。
②髪結い伊佐次捕物余話とは?
髪結い伊佐次捕物余話は著者の宇江佐真理さんのデビュー作にして代表的時代小説シリーズです。本シリーズは著者の宇江佐さんが1995年、『幻の声』でオール讀物新人賞を受賞後、本作『幻の声』を含む連作小説として刊行されたデビュー作『幻の声 髪結い伊三次捕物余話』を含む捕物話&人情(ホームドラマ)時代劇シリーズで、以後宇江佐真理さんが亡くなる2015年までシリーズは続き、16巻『擬宝珠のある橋』まで刊行され未完となりました。
③本作『名もなき日々を 髪結い伊佐次捕物余話 12』のお話はどんなお話(あらすじ2)
◎俯かず
二月末のある日、博打場への手入れに向かった北町奉行所の捕り方だったが、定廻り同心の不破龍之進の失態から手入れは失敗。以後陰口を叩かれた龍之進は意気消沈するがその様子を見た龍之進の義弟・小平太は龍之進を胸を張れと叱咤する・・
一方、髪結い伊佐次の息子で絵師の伊与太は突然師匠が亡くなり身を寄せる場所が無くなり呆然とするのだが・・・
◎あの子、探して
売れっ子絵師歌川国直の元に身を寄せることになった伊与太は国直の住まいの庭に南天、梅、白木蓮を植えるべく苗を求めて植木市に行こうとするがこの時期には植木市が開かれていなくて・・・
一方、伊佐次は人別改めを行ったら、人別上は存在するはずの子供が消えていない案件を受けることに。居なくなった子供は何処に消えたのか?子供の生存を願い丹念な聞き込みを続ける伊三次の元に朗報が訪れる・・・
◎手妻師
伊三次の娘・お吉も夢中になった近頃評判の手妻師・鶴之助の所属する芝居小屋の座元(興行師)の権九郎が芝居小屋で死体になって見つかった。伊三次は権九郎が売れっ子の鶴之助に満足な給金を渡していなかった事を突き止めて鶴之助が殺したのではと疑惑を向けるのだが・・・
◎名もなき日々を
不破友之進の娘の茜は蝦夷松前藩の嫡男・良昌付きの別式女として使えていたが、松前藩の上層部に身体の弱い良昌を後継ぎから降ろして次男で身体の強い妾腹の弟・章昌を後継ぎにという話が持ち上がる。そんな時、良昌を後継ぎから降ろす代わりに茜を良昌の側室にして慰めるという話が持ち上がり、茜はそんな陰謀に反発の意を示すのだが・・・
◎三省院様御手留
蝦夷松前藩八代藩主・資昌の側室で未亡人・鶴子の元に上屋敷で暴力沙汰を起こしたという別式女の茜が引き取ることになった。鶴子は松前藩に起こったお家騒動の顛末を察し茜を引き取るのだが・・・
一方歌川国直と親しいという大絵師・葛飾北斎の元を国直のお供で訪れた伊与太は北斎の描いた風景画を見て描かれた人物の心の内をも描き出す画に己の未熟さを思い知らされるが・・・
◎以津真天
妻・きいの出産を間近に控えた不破龍之進は奉行所からの帰り道、同僚の緑川鉈五郎とばったり行き合い飲みに行くことに・・・出会った頃は虫の好かない奴だと思っていた鉈五郎が今では好ましい間柄になっていることに気がついた龍之進だったが・・・
一方、娘のお吉と買い物に出ていた伊三次の妻・お文は、水谷町の花屋の前で立ち尽くす不破龍之進の妻・きいの姿に異常を感じ駆け寄るのだが・・・
【 感想 】
髪結い伊佐次捕物余話の第16巻である本作は主人公・伊三次の周辺のキャラクター達に大きな変化がありました。
伊三次の息子で絵師を目指す伊与太は突然使えていた師匠に死なれ身を寄せる場所が無くなり大ピンチ!と思いきや、同門の売れっ子絵師・国直に見いだされ彼の内弟子になることに、更に国直と親交がある大絵師・葛飾北斎にも会わせてもらう上げ上げ状態に・・・
一方、奉行所同心・不破友之進の娘の茜は蝦夷松前藩江戸上屋敷にて藩主嫡男・良昌付きの別式女として使えていたが、次期藩主候補に関わるお家騒動の中に巻き込まれてしまい・・・という感じで下げ下げ状態に・・・
また町奉行所同心・不破龍之進の妻・きいが産気付いた。難産で苦しむきいの姿に耐えられなくなった龍之進は「男は産室へ入らず」という戒めをかなぐり捨て産室のきいの元に駆けつけ出産の手伝いを行う。果たして出産の行方は?
という3つの事態を見ているとシリーズをずっと読み続けてきた自分にとって彼ら彼女らの人生の変化・機微を眺めていてとても感慨深いものがありました。人の人生には良い時もあれば悪い時もある。しかし彼ら彼女らは良い時も悪い時も日々を真面目に生き、積み重ねるしかない。そんな事を想いつつページを捲り彼ら彼女らの行末を見届ける行為がなんとも言えぬ贅沢に思えて好ましかったです。
そしてそんな3つの出来事より自分が好ましい話が、自身も二人の子の親である伊佐次が、人別上は居る事になっている消えた子供の行方を必死に探すという捕物話です。
夫婦別れし母親に付いていった男の子を取り返した元父親の母。しかし子を引き取ったものの自分が育てるのは面倒と自身の母(元父親から見ると祖母)に子を預けていたはずが、その祖母が亡くなってみると人別上は一緒に暮らしていた事になっている子供の姿が無い。引き取られた子供は、何かの理由で亡くなったのか?殺されたのか?預けられたのか?売られたのか?伊三次は居なくなった子供の行方を追う。
「生きていてほしい。」「母親の元に戻してあげたい」自身も二人の子の親である伊三次が親達大人の都合に巻き込まれて消息が消えてしまった子供を見つけ出したいと奮闘する姿が愛おしい。
捕物話としては派手なアクションもなく地味な事件だが伊三次の想いがなんともじんわり温かく好ましい。こういうお話が書ける著者の早逝がなんとも惜しいと思いました。
ということで江戸を舞台に繰り広げられる人情噺(ホームドラマ)+捕物話の傑作連作小説是非手に取ってみてください。
ということで本日はここまで!じゃあまたね!
※当ブログ記事には22de5さん、KIMASAさんのイラスト素材がイラストACを通じて提供されています。