先週末に日本に接近した台風21号は、事前の天気予報で日本列島への上陸は無いと判断され実際大きく右折し上陸はしなかったものの関東・東北方面に記録的大雨をもたらし川の氾濫・道路や家屋への浸水被害など大きな被害をもたらしました。

 

 

我が家も一時の集中豪雨で前の道がまたたく間に水が溢れ我が家の敷地を水せり上がり後もう少しで床下浸水に至るか?というところまできました。近くの河川も後20cmで氾濫といったところまで来たそうです。

 

事前の天気予報で情報に油断していたので土嚢の準備も間に合わず、ヒヤヒヤしましたが大丈夫だったのは幸いでしたが、近年の台風の強さの上昇、治水インフラの排水量を上回るゲリラ豪雨・集中豪雨の短時間の降雨量に、従来通りの災害に対する心構えや意識では足りないのではないかと沈思思考した週末でした。

 

閑話休題

 

さてそれではいつも通り本の紹介へ行きましょう。

 

本日紹介する作品は、ミステリー!

 

下村敦史 著 闇に香る嘘 です。

 

いつも通りあらすじ紹介から行くとします。

 

 

【 あらすじ 】

 

満州開拓団一家で戦後の引き上げ者である村上和久は、当時の栄養失調などの影響があったのか四十の年を超えたところで失明した。

 

失明直後、彼は己の境遇に絶望、家族に甘え日々癇癪を起こしわがまま放題に振る舞った事で、妻娘に見捨てられ家を出ていかれて一人孤独な生活を営んでいた。

 

そんな寂しい日々を過ごしていた彼に、ある日出ていった娘・由香里から連絡があった。

 

内心喜んだのも束の間、娘の言うことには和久にとって孫にあたる彼女の娘・夏帆が腎不全の重い病にかかり苦しんでいるので、「和久の腎臓を一つくれないか?」とのこと。

 

娘との和解、孫の苦しみを取り除くために、すぐさま願いを受け入れ、移植前の適合検査に挑む和久。

 

しかし検査の結果は「不合格」。娘からの冷たい言葉を浴び、失意に暮れる和久。

 

娘の願いも孫の苦しみも救ってやれない事に無力感を覚える日々の和久。

 

そんな時、故郷で老いた母と暮らす兄から久しぶりの帰郷を正す電話がかかってきた。

 

「そうだ、兄なら腎臓移植の提供者になれるかも」と気がついた和久は、必死に兄に腎臓の提供を願うが、兄は腎臓の提供を断り適合検査を受ける事も頑なに拒否をする。

 

そのあまりにも冷たい態度に違和感を覚えた和久は、兄に対してある疑惑を覚える。

 

「兄と言っているこの男は、本当に自分の兄なのだろうか?」と・・・

 

満州から日本への帰還途上、自分と母から逸れてしまった兄は、中国残留孤児帰還事業によって戦後かなり時間を経てようやく日本に帰還した。

 

「兄が実は別人だったのなら?」疑惑が頭から剥がれない和久は目が不自由の身で兄の事、中国残留孤児帰還事業の事について調べ始まるのだが・・・

 

 

【 解説 】

 

①本作品は第60回江戸川乱歩賞受賞作品

 

著者の下村敦史さんは2006年から9年連続で江戸川乱歩賞に挑戦!九回目にして本作品で第60回江戸川乱歩賞受賞し作家デビューしたミステリー作家さんです。

 

②主人公は盲目。元満州開拓団一家で戦後日本に帰還

 

主人公は、戦前に国策として推進された「満州開拓団」として満州に渡った一家の末子で、終戦直後命からがら日本へ逃げ帰る途中兄と離れ離れになり、やもなく母と日本に帰還した過去を持ち、更に四十の年を超え失明したというハードな設定の人物。

 

③主人公の兄は中国残留孤児帰還者だが疑惑あり・・

 

主人公の兄は、戦後かなり経ってから外務省主導で行われた「中国残留孤児帰還事業」によって日本人として復帰した人物で、主人公はその時には失明していた為に、兄の顔を確認していないという設定。

 

受け渡し時の承認者は、我が子を中国に置き去りにせざるを得なかった母。

 

腎臓移植適合検査を拒む兄は「実は偽物で他人ではないのか?」との疑惑が頭から離れない主人公。

 

更に兄の自分への振る舞いに不審さを強める主人公。「自分や母を殺そうとしているのでは・・・」

 

「あの男は、貧乏な生活から抜け出したいあまり中国残留孤児の兄になりすまして密入国した中国人では?」との疑惑で兄の事を調べ始めた所、彼の周辺部ににわかに巻き起こる不気味な兆候。

 

果たして兄は「本当の兄なのか?」というサスペンスな作品です。

 

③数多くの不審な出来事が主人公(読者)の不安を募らせる。伏線バシバシ!サスペンス感たっぷり!

 

・母と兄が暮らす実家にあった「ヒ素が入った瓶」兄はネズミ退治の為と言うのだが・・

・残留孤児帰還事業と兄の事を調べ始めた直後から主人公周辺で起きる怪しい兆候

・主人公に送られてきた何者かからの点字の手紙

・主人公の元にかかってきた実の兄と称する者からの警告の電話

・母兄と共に行った旅行先で母から言われた怪しい言葉

・母の急死と留守宅への侵入者の気配

・何者かからの呼び出し

・孫の夏帆の誘拐

 

など不安と緊張感を呼ぶ伏線がたっぷりです!

 

 

【 感想 】

 

①盲目の主人公目線で繰り広げられる物語は、緊張感ありあり!

 

失明し盲目の主人公目線で繰り広げられる物語は、緊張感ありあり!

 

音、匂い、触感、気配・空気感で周囲の状況を判断し行動しなければならない主人公目線の文章にドキドキ感が止まらない。

サスペンス要素たっぷりです。

 

②中国残留孤児帰還者に対する日本国の仕打ちの酷さと日本国民の無関心さに警鐘を鳴らす書

 

戦前、日本が大陸にでっちあげた満州国、 建国理念として日本人・漢人・朝鮮人・満洲人・蒙古人による五族協和と王道楽土を掲げ建国されたが、実態は日本人による支配を強めた日本の属国で、国策で貧しい人々を中心に大量の移民を行っていたが、終戦で満州国は崩壊、移民者はその地を追われ日本国に帰還するもその過程で多くの犠牲者と帰還困難者を生んだ。

 

そして戦後中国との国交回復後も長らく、日本政府も日本国民も不都合な事実にほっかむりするがの如く、中国に残る残留者の存在を無視し日本帰還を支援してこなかった。

 

しかし中国からの帰還者家族とその支援者達の粘り強い交渉の果てようやく中国残留者の調査・帰還事業が行われたのだが、帰還した残留者に対する日本政府の支援はかなり不十分なものであった。

 

そんな日本人の「過去の不都合な真実には目を背け直視せず忘れ去ろうとする体質」への警鐘と批判の意も込められた作品だと感じました。

 

③結末は多くの伏線でなんとなく予想していたが、正直自分はあの事を秘密にしておく事をしないで打ち明けていたら良かったんじゃないのかなぁと思った。

 

結果、今回の疑惑とそこから起きる事件が「あることを◯◯に黙っていた事」から起きた事だったのだが、正直確かに重い事実かもしれないけど、その事を告げられて本人がそれほどショックを受けるか疑問であった。

 

自分がその状況に置かれたとして、真実を告げられても自分は「ああそうなのか・・・」で納得して終わるくらいの事なのだ。

 

もちろん人がその真実に打ちひしがれる事もあるかもしれないとも思うが、正直初老の年になりつつある大人が聞かされても今更動揺し取り乱す事が無いと思うのだ。

 

何を言っているかは判らないであろうが、それは作品を読めば判る事。なかなか緊張感のある「江戸川乱歩賞」にふさわしい作品だと思います。ドキドキ感を味わいたい人は是非読んでみて欲しいお薦めの作品です。

 

 

ということで本日はここまで。じゃあまたね!

 

※当ブログに掲載されている写真は、s*********************mさん、はじまりのうたさん、サメ太郎さん、bBearさん、しみるけいさんによる写真ACからの提供されている写真です。

※浸水被害の写真は、25日の台風21号の影響下で起きた浸水被害の写真ではありません。

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