前回、今は中山七里祭り状態伝々みたいなことを書いたと思うんですが、今回も懲りずに中山七里作品の紹介をしようかと思います。
でっ今回は「弁護士・御子柴礼司シリーズ」の第四作目!
悪徳の輪舞曲を紹介しようと思います。
ということで、いつも通りあらすじ紹介から行くとします。はじまりはじまり~!
【あらすじ】
少年時代の忌まわしき過去が暴露され依頼者の多くを失っていた弁護士の御子柴だったが、医療少年院時代の恩師の裁判での活躍を観て依頼者が戻りつつあった。
そんなある日、御子柴の事務所を菰田梓(旧称・園部梓)という中年女性が突然押しかけてきた。
彼女は御子柴が事件を起こして依頼一度も会っていなかったの実の妹だった。
憎しみのこもった目で睨みながらも語ったのは、彼らの実の母である成沢郁美(旧称・園部郁美)が財産目当ての夫殺しの容疑で警察に捕まったので弁護を依頼したいということ。
「あなたには自分たちに借りがあるはず」と言う梓に。冷たく「依頼を引き受けるに当たってきちんとした報酬がない弁護はしない」と返す御子柴。
渋々条件を了承した梓をよそに、早速捕われている母・梓に対面した御子柴。
情を絡めて話をしようとする実母・郁美の言葉を遮り、単なる一弁護士として弁護を引き受けることを宣言し契約を結んだ御子柴だったが・・・
一方、東京地検の槙野検事は、先輩検事よりの注進で、自分の担当する「夫殺しの事件」の容疑者の弁護士に、あの「死体配達人」にして凄腕弁護士の御子柴が付きそうだと知らされる。
しかも容疑者は彼の実の母だと言う。
槙野は裁判が難しいものになる予感に打ち震えていた。
果たして裁判の行方は!
【解説】
①本作品はリーガルサスペンス
この作品を含む「御子柴礼司シリーズ」は、サスペンス系小説における法廷推理劇(リーガルサスペンス)に分類できます。
②本作品の主人公・御子柴礼司は少年時代人を殺して医療少年院に入っていた過去がある。
本作品(御子柴礼司シリーズ)の主人公・御子柴礼司(園部信一郎)は、14歳の少年だった時、近所の顔見知りの幼女を拐かし殺害、身体を解体しその一部を郵便ポストなどに遺棄した事件の犯人だった過去がある。
そのあまりに残虐な行為に世間は彼を「死体配達人」の異名を付け恐れおののいたが、彼が少年犯だったため医療少年院行きの措置になった。
医療少年院に入った慎一郎は、そこで出会った教育担当官の稲見武雄に大きな影響を受け、医療少年院を退所し改名後、猛勉強の末、司法試験に合格!弁護士になった。
その後、有罪確実と言われた事件を次々にひっくり返す凄腕弁護士として活躍していたが、ある事件の裁判で彼の過去がバラされ一時依頼が激減していたが、恩師・稲見の裁判での活躍で依頼者が戻りつつある。
③今回の依頼は、実の母の裁判!実の家族と向き合う御子柴!
事件を引き起こす前の園部少年(御子柴)にとって「家族」との関係は情も絆も希薄なものだった。
そして「命」に対する尊さを学ばず「内なる獣の誘惑に抗えず」引き起こしてしまった忌まわしき事件。
結果、己は世間のバッシングから隔離された塀の中に、家族は世間のバッシングと賠償にさらされ、父は首を吊って自殺し、母と妹は名を変え住む土地を変えてバッシングから逃れて生きる生活を続けてきた。
そんな悲惨な生活の果てに幸を得たかに見えた母・郁美が引き起こしたと称された事件の裁判に挑む御子柴。
そして御子柴は、加害者家族への世間の仕打ちと被害者家族の苦しみと澱の様に貯まる恩讐の想いの強さをあらためて知る。
④今回も「ドンデン返しの中山」炸裂!
著者は「ドンデン返しの中山」と言われる程、あっと驚く「ドンデン返し」の結末を持ってくる作家さんだと知られていますが、今回もその「ドンデン返し」が炸裂!その「ドンデン返し」の結末は、御子柴の心にも強いインパクトを与えそうです。
【感想】
①推理サスペンスとしてバランスが良かった。
今回は、フーダニット Who done it (犯人は誰なのか?)、ハウダニット How done it (どの様に犯罪を行ったのか?)、ホワイダニットWhy done it (何故こんな事件を引き起こしたのか?)のバランスも良くおもしろいと思います。
②自分の家族と向き合うはずが・・・
このシリーズを通して読んでいても、信一郎少年(御子柴)が「どうしてあの残忍な事件を引き起こしたのか」が判らない。
「自分の中に潜む獣」がいつから生まれ、育っていったのか?」
家族間の情のやり取りが「希薄」だったという記述もあったが、シリーズ既刊を読んでいても、未だにその辺りの記述が曖昧に書かれている。
当時の信一郎少年が他の家族に対して、内心失望を覚えていた節はあるが、それが、どう「幼女殺し」へと向かったのか?
もしかすると、世間一般の家と大差無い状況下であんな事件を引き起こした信一郎少年のエピソードを提示して、凶悪な事件を引き起こす者は、大多数の方が思う「不良品」「異常者」では無く、トリガーが発動されれば世の中どんな人でも凶悪な事件を引き起こす素地があるのでは?と主張している様に感じた。
そして「かつての信一郎少年」にとっては、園部家の面々に対する絆や情は未だに希薄だ。
彼にとって「親」と認識しているのが医療少年院の教官の稲見武雄だという記述で、自分の親との間ってそんなに希薄かなぁ?って思うのは自分が「幸せ」なのだろうか?
で、結局、御子柴と彼の実家族との心の絆は結ばれることなくすれ違う。
このまま実の家族との間が希薄なままで終わるのか今後の展開には興味が尽きない。
③ドンデン返しの結論にドン引き!
もうとにかく「ドンデン返し」の結論にドン引きです!そこまでして、ああなったのか。あの人の〇〇に対する想いの強さ。澱の様に胸の内に貯まる恩讐の強さは怖ぇー。それだけ◯◯に対するあの人の愛情を感じました。そしてラストの◯◯の告白にまた衝撃!読者にミスリードさせておいて・・・やってくれますね中山さん。
③御子柴にとって罪を償う事とは?
御子柴にとって、己が引き起こした事件で被害者に塗炭の苦しみを与えていることは重々承知の上で、彼は安易に謝罪しない。
自分の心の奥底に「真の反省・贖罪心」が無いことも判っているし、そもそも犯した罪を贖罪などできるものではないし、今更謝っても取り返しが付くことではないし、被害者の心が癒やされるものでもないと判っている。
だから彼は、被害者から一生恨まれ呪われて生きる事を課すと共に、己の中に潜む「破壊衝動の獣」を飼い慣らし、抑え、社会人として生き続ける事で「更生」しようと考えているのではないか? と、このシリーズを読んで感じている。
先月から、中山七里作品を四回に渡って紹介してきましたが、次回からまた別の作家さんの作品を紹介しようと思います。
それでは、本日はここまで、じゃあまたね。
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当ブログの写真やイラストは桔梗さん、他、写真AC&イラストACさんからの提供によるものです。