今日は相当古く書かれた傑作ミステリーで以前から読んでみたいと思っていた作品を最近読み終えましたのでご紹介します。
 その作品は、水上勉 著  飢餓海峡(上・下) です。実はこの作品を知ったのは1965年公開の映画があるのを知ったことで、味村刑事役・高倉健、弓坂(元)刑事役・伴淳三郎、樽見京一郎役・三国連太郎、杉戸八重役・左幸子、で名作だそうで、こちらはまだ観ていないので是非観て見たいと思っています。 そのあらすじですが、

 戦後まもない北海道に猛烈な
台風が襲った!津軽海峡を渡る青函連絡船が転覆し多数の死傷者が出た。同日、岩幌町の質屋に強盗が入り大金を奪ったあげく一家を惨殺、証拠隠滅の為に放火して逃亡した。その火は市街全体に燃え広がり大火となった。
 その後、転覆事故の遺体確認を行った函館警察は二体の乗客数を越えた
遺体を見つける。函館署の弓坂刑事はその遺体が岩幌町の質店強盗殺人犯の三人の内の二人だと推測し残りの一人の消息を追う!
  その頃、青森県大湊の
娼婦・八重は昨晩一夜を供にした犬飼という怪しい男から大金を渡され、男は姿を消す。それは八重を悲惨な境遇から開放してくれるものだった。その後、犬飼を追跡してきた弓坂刑事に事情を聞かれた八重は犬飼をかばって何も話さなかった。

 
10年後、八重はふと目にした新聞で、舞鶴の実業家・樽見京一郎が刑余者の更生事業基金に大金を寄付した記事を見る。樽見という写真の男は、自分を助けてくれた犬飼の面影があった。たまらず舞鶴に樽見を訪ねる八重!しかしその事が悲しい事件に繋がってゆく・・・

 このミステリーは、松本清張の「砂の器」等の傑作ミステリーとおなじで、ヘビーで切なく読み応えがある物語である。捜査陣は現代のスマートな捜査手法は無く、ひたすら聞き込みあるのみ!刑事の執念
・刑事魂が伝わってくる。
 また犬飼(樽見)がただ貧しいということから犯罪に手を染めたのではなく、
貧す過ぎると心が乾き、荒んできて、絶望からの脱出の為に悪魔に変化してゆく様を、刑事達の丹念な捜査が浮かび上がらせてくれる。 そして光輝く世界にきたはずの犬飼(樽見)が自分の過去を知っている女に過去を暴かれ、現在の地位を失う事に恐怖して、自分が救ってあげた純真な心を持つ女に手をかけてゆく・・・
 犯罪をして得た大金によってどん底から這い上がったはずの男女が再び出会った時、二人をまたどん底に突き落とす羽目になる。その皮肉な話には胸がつまり、
悲しくも切ない話のラストシーンを読んでいると、ふと冬の津軽海峡の吹雪き荒れる冷たく暗い海の風景が頭に浮かんだ!
 
 時代背景が現代の状況とは大きく違っていて、その絵を頭に浮かべにくいかもしれないが、とても良くできたミステリーなので是非挑戦してみてほしい。

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