本当の気持ち#3 | 巡り巡って

巡り巡って

韓国ドラマ「宮〜Love in Palace〜」の二次小説のお部屋です

ユルから『シンに確認する』と言われたヒョリンは心穏やかではなかった。

本当に確認されたら嘘だとバレていまう。

かと言って、ユルに確認するなとも言えないし、シンにユルから確認されたかどうかも聞けない。

もしもシンに問い詰められたら…何か良い言い訳を考えなければ…。

そう思えば思うほど、良い案は浮かんでこなかった。

 

 

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そんな事があった翌日。シンは大学に来ていた。

教室に入るとイン達が手を上げてここだと合図する。

「よぅシン!災難だったな」

「風邪ひいて熱まで出るなんてな!身体の鍛え方が甘いんじゃないか?」

「何言ってるんだ。ちゃんと鍛えてるから1日で治ったんだ」

 

茶化すギョンに反論しながら、なぜかチェギョンの事が頭に浮かぶ。

『アイツの看病のお陰なのかも…』

 

「お?何だよ、ヒョリンに会えるって考えただけで笑顔か?」

 

ギョンがまた茶化しながら言う。

 

「何を言ってる。笑ってなんかないぞ」

「おいおい無自覚か?ホラ」

 

普段からビデオカメラを持ち歩く事が多いファンが先程から撮っていた映像を観せた。

そこには満面の笑みとまでは言えないが、確かに口角を上げて微笑んでいるシンが映っている。

だがそれはヒョリンの事を考えていた訳ではなく、チェギョンの事を思っていた時だ。

そもそもヒョリンに会えるなど考えてもいなかった。

 

「シン!」

 

そこへヒョリンがやって来た。

 

「お?噂をすれば…だな!」

「噂?私の事?何を話していたの?」

 

笑顔で聞いているヒョリンだが内心穏やかではない。

もしかして自分の嘘がバレたんじゃないか…

 

「シンがお前に会えるって喜んでたからさ」

「あらそうなの?嬉しいわ。私も会いたかったのよ?」

 

そう言いながらいつものようにシンの隣に座った。

周りがヒョリンの言葉に「ラブラブだ」とか「熱いね!」など盛り上がってるのを利用して更にシンに密着し、顔を近づけてそっと耳打ちをする。

 

「昨日…ユルから連絡あった?」

「は?ユル?何もないが…何かあったのか?」

「いいえ、何もないわ。気にしないで?」

 

ユルがシンに確かめておらず嘘がバレていないと思ったヒョリンは

安心した。

 

「ねぇシン?また東宮殿に遊びに行きたいわ」

「おぉ!いいな!来週辺りどうだ?」

 

ヒョリンの提案にインが乗る。

 

「すまない。今度陛下の代わりに公務が入っているんだ。その準備で

当分時間は取れそうにない」

「ふーん、そうなんだ。大変だね」

 

本当にそう思っているのかどうか表情を読む事が難しいが、ファンの

その言葉にシンは“あぁ”と小さく返事をした。

 

「ねぇ、それってあの子も行くの?」

「いや、アイツは別の公務が入っているから僕一人で行く」

「へぇ…そうなんだ…」

 

ヒョリンはそう言いながらシンには見えないように不敵に微笑んだ。

 

 

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「イギリスよりウィリアム皇太子殿下が来韓されます。妃宮、あなたにはそのお相手をお願いしたい」

「えぇっ!?」

 

いつもの朝の挨拶。

皇太后から突然の発表にチェギョンは思わず大きな声を出してしまった。

隣に座るシンからは痛い程の冷たい視線が突き刺さっている。

だが今はそんな事を気にしている余裕はない。

 

「そ、そんな…私がウィリアム皇太子殿下をもてなすなんてまだ…」

「皇后からもチェ尚宮からも随分と教育が進んでいると聞いている。

何もたった1人で相手をしろと言ってるのではない。我らもサポートに入る故。それに…」

 

意味深に言葉を含ませて微笑む皇太后。チラリとシンを見てチェギョンに視線を戻す。

 

「本来ならばシンと共にタイへ行って欲しかったのだ。だがそこへウィリアム皇太子殿下が来韓する事が急遽決まってな。ヘミョンに相手を頼もうと話していたのだがシンがな…」

 

またシンを見ては微笑む…というよりもニヤニヤと楽しそうに笑う皇太后。

シンはあえて視線を逸らして無表情を保っている。

 

「この件はチェギョンに任そうと言うのじゃ」

「えぇっ!?」

 

また大きな声を出してしまったチェギョン。

そっとシンを窺うが、いつもと同じポーカーフェイスのままだ。

 

「ウィリアム皇太子殿下も少しでも若い女性にもてなして頂く方が嬉しいでしょう」

「んま!シン!それって私じゃダメって事!?」

「いえ、誰も姉上が…とは言っておりません」

「これこれ!姉弟喧嘩はするでない!とにかくじゃ!妃宮がウィリアム皇太子殿下をもてなす事は決定事項である!!」

 

 

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「ねぇ!ちょっと待ってよ!シン君!!ねぇってば!!」

 

つい先日はチェギョンを気遣って歩調を合わせていたシンだが、今日はいつも通りスタスタと東殿へと帰っている。

あの時は一緒に並んで歩いたし、謝ってもくれたから少しはお互いの距離が近くなった気がしていたのだが、それは勘違いだったのかと少し落ち込むチェギョン。

 

「何だ」

 

諦めたかのようにシンはピタリと立ち止まった。

 

「どうして皇太后様にあんな事言ったの!?私に任そうだなんて!私…そんなの出来ないよ!!」

「出来ない?どうしてそう決めつけるんだ?妃教育は難しいが一つ一つ理解しようと頑張っていると僕も報告を受けている。

妃教育が出来てどうしてもてなす事ができないんだ?妃教育よりは容易い事だろう」

「そっそれは何でも熟せるシン君だから言える事だよ!」

「何を言う。僕だって努力してきて今があるんだ。お前とは年季が違う」

「でも……」

 

中々首を縦に振らないチェギョンにシンは小さくため息をついた。

 

「ここに居れば皇太后様も両陛下も姉上もいる。何かあった時に助けてくれる人はいくらでもいるんだ。

僕と一緒にタイに行けば、僕しかいない。ただでさえ海外公務は色々と気も神経も使うんだ。お前に構ってる暇などない」

「う…それは分かるけど…」

「カヤグムとかテグムを演奏したらどうだ?音楽は好きだろ?

皇后様はどちらもお得意だから教えていただくといい。ホラ、お前の信条はどうした?何でも楽しむんだろ?」

 

その言葉に、ハッと顔を上げるとニヤニヤとしたシンと目が合った。

 

「む!分かったわ!やる!やってやるわ!!見てなさい!!!!」

 

言いくるめられた気もしないでもないが、そこまで言われて断るチェギョンではない。

何が何でも成功させてやる!と心に決め、「特訓よ!」などと叫びながら東殿へと戻って行った。