風邪#3 | 巡り巡って

巡り巡って

韓国ドラマ「宮〜Love in Palace〜」の二次小説のお部屋です

どれほど眠ったのだろうか。

目が覚めれば周りは薄暗くなっていた。

 

「あ。起きた?調子はどう?」

 

声のする方に顔を向けると、そこにはユルがいた。

 

「来てたのか…」

「うん、ついさっきね。チェギョンも戻ってるよ。今は妃教育に行ってる」

 

ユルから“チェギョン”という言葉を聞いただけで眉間にチカラが入った。

ユルもそれを見逃さない。

 

「ねぇ、シン。病人に対して今こんな事言うのも申し訳ないんだけどさ…」

「何だよ」

「どうしてヒョリンにあんな事言ったのさ」

「あんな事?」

「そう。チェギョンに上着貸したのはパフォーマンスだって」

「はぁ?何だソレ。僕は一言も言ってない」

 

今度はユルの眉間にチカラが入る。

 

「チェギョンに会ったら、ちょっと暗い顔してたから問い詰めたんだ。

告げ口とかしない子だから言わせるのに苦労したよ」

 

ユルの話しによると、インとギョンに嫌味を言われ、更に先程のヒョリンの発言。

 

ヒョリンは何の為にそんな嘘をつく?

そう思った瞬間、二面性という言葉を思い出した。

 

「本当にヒョリンが言ったのか?証拠でもあるのか?お前もその場にいたのか?」

「シン!?チェギョンがそんな嘘つくわけないだろ!?大体、そんな嘘ついて何の得になるんだ」

「アイツが嘘をついて、お前に慰めて欲しかったんじゃないのか。

そうやって周りから同情されたいんだ」

「シン!!!」

 

お互い睨み合ったまま一歩も譲ろうとしない。

このままではいつまで経っても平行線のままだ、と、先に口を開いたのはユルだった。

 

「シン…。チェギョンはお前が風邪引いたのは自分のせいだからって

看病してたんだ。

本当は大学も休みたかったんだろうけど、休めない講義があるからって殆ど寝てない状態で大学に行ったんだぞ?」

「僕が頼んだ訳じゃない」

 

その言葉にユルは態と大袈裟に息を吐き出した。

 

「もっとチェギョンの事を考えてあげてよ。じゃないとシンはきっと後悔する」

「はぁ?なんだソレ」

 

シンの問いかけには答えず、「お大事に」と一言残して部屋から出て行った。

そんなユルに多少の苛立ちを感じながら、再び目を閉じた。

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

『シンはきっと後悔する』

どうしてそんな事を言ってしまったんだろう。

シンがチェギョンにどれほど冷たく接していたとしても、チェギョンには僕がいる。

僕が優しく接していれば、シンと別れた後もチェギョンは僕の側にいるだろう。

だって守ってあげられるのは僕しかいないのだから。

 

でも‥不安な気持ちが心の奥底から這い上がってくる感じがする。

チェギョンと結婚したシンは徐々にではあるが変化が見られる。

以前よりも感情が豊になったように思う。その証拠に風邪の原因でもある、上着を貸した事だ。

今までのシンには考えられない行動である。パフォーマンスとも思えない。

想像もしたくないが、もしかしたらシンはチェギョンに惹かれているんじゃないのか…。

いや、今話した感じからするとそんな気配は感じられなかった。だが…。

 

チェギョンにしてもそうだ。

シンを看病するなんて…。

確かにチェギョンは心優しい子だ。だが、夜も殆ど睡眠を取らずに看病するだろうか。

まさか‥まさかチェギョンまでもがシンに惹かれているのか…?

 

そんな恐ろしい考えが頭に浮かび、それを打ち消すように頭を左右に振る。

果たして後悔するのはシンの方なのか、僕の方なのか…。

 

ユルはこれ以上考えると恐れた事が現実になりそうで、その思いを振り切るかのように足を速めて東宮殿を後にした。

 

 

*************

 

その数時間後、お妃教育を終えたチェギョンが戻って来た。

向かう先は自分の部屋ではなくシンの部屋。

中を窺うように覗けば、シンは身体を起こしてベッドヘッドに背を預けている。

 

「もう起きて大丈夫なの?」

「お前はノックもなしに僕の了解も得ずに勝手に入ってくるのか」

 

シンから冷たく扱われるのには慣れているチェギョンだが、今の言い方はいつもと違うような気がした。

 

「どうしたの?何かあった‥?」

「別にお前に答える必要はない。用がないなら出て行ってくれ」

「もう!用ならあるもん!ここへ戻ってくる途中、厨房に寄ったの。料理長さんにおかゆ作ってもらったから、

これ食べてお薬飲んでね」

 

言いながらシンのベッドに近づいて行った。

 

「そこへ置いておけ」

「温かいうちに食べてよ。少しでも‥2、3口でもいいから」

「今はいらないと言っているんだ!」

 

そう言ってチェギョンが近づくのを手で制止しようとしたのだが、タイミングが合わずにチェギョンが持っていた

トレイに当たってしまい、ガチャン!と音を立てた器はズレて少し零れてしまった。

 

「熱…っ!!」

「えっ?お、おい!」

「あぁ、大丈夫よ。シン君は?かからなかった?」

 

おかゆは幸いにもシンにかからず、床に零れた。

問題はチェギョンだ。大丈夫だと言っていたが、おかゆはチェギョンの左手にかかったのだ。

白い肌は赤くなってしまい、痛いであろう事が見て取れる。

 

チェギョンはトレイをサイドテーブルに置くと、女官を呼んで清掃をお願いした。

 

「あ、器に残ってるおかゆは零れなかったんだから大丈夫だよ。だから食べてね。料理長さんも心配してたんだから」

 

そう言うと手当するから、と部屋を後にした。

 

一体何なんだ。

ヒョリンの話し。

ユルの話し。

どっちが本当なんだ?

自分があいつにキツく当たったのは完璧八つ当たりだ。本当のアイツが分からなくて…。

今だって僕に怒ってもいいはずだ。僕が手を出さなければこんな事にはならなかったんだ。

それなのに責めるどころか逆に心配をするなんて…。

 

ふと目線を横に移すと少し量が減ったおかゆが置いてある。

手を伸ばしてそれを取り、一口口に運んだ。

 

何度も食べた事がある、同じ料理長が作るおかゆのはずなのに、この日のおかゆは何だか優しい味がした。