美味しいはずの料理も、緊張と暗い気分のせいでとても味なんて
分からなかった。
それに何と言っても居心地の悪さ。
こんなにも早く時間が過ぎるようにと祈った事はない。
そんな苦痛の時間をどうにか耐え、皇太子へのプレゼント披露の場となった。
「おめでとう!シン!俺達からはこれだ!!」
インとギョンが手のひらサイズの箱を手渡した。
中身は某ブランドの高級腕時計。つい先日発売されたばかりの新作だ。
「ありがとう」
淡々と受け取るシン。
その表情はいつもと変わらない。
「じゃ、僕からはこれを」
そう言ってファンが渡した物はとても古いアナログ式のカメラ。
これには少し口角を上げてシンがお礼を言っていた。
写真を撮る事が趣味だと言っていたシンだから、その価値も分かっているのであろう。少し驚きながらも嬉しそうに受け取っている。
続いてユルが渡した物はとある作家の初版本。
これもシンが好きな作家故、嬉しそうに受け取っていた。
「私からは…」
言いながらヒョリンが取り出した物はMP3プレイヤーだった。
「私とシンの思い出が詰まった曲ばかり入れておいたわ。
曲の一つ一つが私達の思い出よ」
後で一緒に聴きましょう。と笑顔で渡し、シンも笑顔で受け取った。
そこで一気に視線がチェギョンに集まる。
つい数ヶ月前まで一般庶民、しかも借金持ちの彼女がどんなプレゼントを用意するのか皆興味があった。
ヒョリンが教えたのだからプレゼントは用意してあるはずだ。
だがチェギョンが用意したであろうプレゼントはどこにも見当たらない。
「妃宮様のプレゼントはどこだ~?」
ギョンが大げさに探すフリをしている。
「あっ、あの…プレゼントは…。実は間に合わなくて…」
「間に合わない?おいおいどんな遠くから取り寄せするんだ?」
用意できなかったのかと思いきや、間に合わないというチェギョンに
ヒョリンは負けたと思った。
インが言う通り、どこかからの取り寄せで空輸の為時間がかかるのかと思ったのだ。
だが、次の言葉でヒョリンに笑顔が戻る。
「いえ、そうではなくて…。仕上げの段階で…、あともう少しで完成するんです」
「はっ!?仕上げ?まさか手作りとか言わないよな?」
「え?手作りですけど…」
その言葉に笑いが起きる。
「おいおい、マジかよ!」
「うわぁ…ドン引きだぜ」
「いくらお金がないからって手作りはどうかと思うわよ?負担に思う
男性が多いわ」
それらの言葉を聞いてとても恥ずかしくなったチェギョン。
よく考えてみればそうなのだ。
皇太子の誕生日パーティーで招待されているのは王族や有名企業といったいわゆるお金持ち。
その中で誰が手作りの物をプレゼントするというのだろうか…。
「そうかな?まぁ確かに手作りを負担に思う男は多いけどね。
でも僕は妃宮様がどんなプレゼントを作ったか気になるな。
美術専攻だからきっと想像もつかないくらい凄いプレゼントなんじゃないの?」
俯いていたチェギョンが顔を上げる。
今の発言は庇ってくれたのだろうか、それとも単純にそう思ってくれたのだろうか…
「何だよファン!コイツの味方か?」
「味方とかそんなんじゃないよ。ただどんなプレゼントなのか興味があるって言っただけだよ。
シンもそうなんじゃないの?毎年ありきたりなプレゼントよりはどんな物が贈られるのか想像もつかない方が楽しいよね?」
「僕は別にどうでもいいよ」
たかがプレゼントでどうして揉める事になるのか。
面倒な事に巻き込まれたくないとシンはその場を離れた。
その後姿をヒョリンが追って行った。
「おいファン!“ありきたり”って何だよ!俺だってシンが喜んでくれたらって選んだんだぜ?」
ファンに反論されたことが面白くなく、ギョンは怒りをぶつけた。
「本当にそう?皇室は国民の税金で生活しているんだ。それなのに
あんなに高級な時計をプレゼントするの?
国民の税金はどうなってるんだ?って怒られるよ」
「でもあれはプレゼントだ!」
「そう全国民に言うの?それで納得すると思う?大体、どうしてあの
腕時計じゃないといけなかったの?
シンが特別好きなブランドでもないだろ?」
「そっそれは…」
どうせプレゼントするなら良い物を。そう思って選んだだけで特別な理由なんてない。
「まぁまぁ。ギョンだってシンの事を思って選んだんだろ?確かに皇室に高価な物はちょっとね…。
でもそういうファンも高価なものじゃないか。違う?」
「うっ…」
ユルも加わり、事が大きくなる。
「あ、あの…。私の準備が間に合わなかったせいでごめんなさい…」
このままでは東宮殿の時のように言い合いになってしまう。
そう感じたチェギョンはこの場を治めようとした。
「ごめんごめん。つい熱くなっちゃった。もうこの話しは終わりにしよう。当のシンがいないしね。
要はプレゼントは気持ちが大事だって言いたかっただけなんだ」
ユルはそう言って笑ってみせ、プレゼント披露は終わった。
イン達はこの場がしらけてしまったから飲みなおそうと場所を移動する。それにユルも続く。
チェギョンは更に居心地の悪さを感じて、疲れたからと控室で休む事にした。