中国はすでにトランプが大統領に復帰した場合(「もしトラ」)への対策をスタートしている。中国政府高官は米財界人との関係を深めており、トランプ政権に誰が加わると思うかと質問したり、中国への投資を維持させようとしたりしている。中国当局者の間では、米国など西側の専門家を招き、トランプが勝利した場合の米国の輸出規制の規模などを探る会合を開いている。

 

そして、中国の外交、貿易、投資、技術担当省庁では、トランプ陣営の大統領選挙監視要員を任命し、その中核的課題は貿易戦争の再発への備えにある。「もしトラ」により、米国の対中技術制裁が加速した場合に備え、中国企業は中東などで人工知能(AI)を含む先端技術へのアクセスを拡大している。一方、中国は長引く不況から脱却するために国家主導による製造業の強化を目指している。

 

「もしトラ」への準備として、中国は関税と先端技術関連の備えに大部分を傾注する。中国当局者は、トランプの懐刀のライトハイザーに注目し、彼の著書「No Trade Is Free(いかなる貿易も自由ではない)」が参考にされている。ライトハイザーは昨年出版した著書で、中国は「米国と、米国が築いた西側の自由民主主義制度が米独立革命以降に直面した最大の脅威」だと記している。ライトハザーはトランプ政権下で中国との「第1段階」貿易合意の交渉を担当し、現在すでに次期トランプ政権の財務長官候補として名前が挙がっている。

 

中国はすでに、バイオテクノロジーや量子コンピューティング、AIといった分野で、中国の研究者はアブダビ技術イノベーション研究所(TII)との協力を深化させようとしている(ジミー・グッドリッチランド研究所上級顧問)。また、技術分野での米国の制裁を迂回しようとする中国の戦略は今後加速されるであろう。米国は、中国企業が第三国を経由し米国製のAI向け半導体を調達することを懸念している。

 

トランプはすでに自分が大統領に復帰した場合、中国からの輸入品に最大60%の関税を課す可能性があると発言したり、「経済と国家安全保障の両方の問題として、あらゆる重要分野で中国への依存を完全に排除するため、さまざまな大胆な改革を実行する」とも述べている。

 

バイデン政権がスタートしてからウクライナやパレスチナ自治区ガザでは戦争が起き、地政学的分断が起きた。地政学的に一方に米国と欧州が、もう一方には中国とロシアが構えるという線引きが明確になった。しかしながらトランプが選挙で勝てば、この構図はあいまいになるだとう。トランプ政権の時は米国は「パワーポリテイクス」政策を展開し、中国との覇権競争の勝利だけを念頭にロシアとの関係は友好に保った。また、同盟国とは距離をおき「アメリカンファースト」政策をとったのである。一方、バイデン政権は、イデオロギー政策を復活させ、「民主主義」対「権威主義」の構図を復活させ、「バランス・オブ・パワー」外交を展開した。そのため、同盟国との関係を復活させ、同盟国からの上納金の献上を求めた。

 

トランプが大統領に復活すれば、ロシアのプーチン大統領との仲を復活させよう。そのことは、中ロ関係にどう影響するかを習近平は懸念しているだろう。習近平国家主席と

プーチン大統領の間で深まった関係をトランプが壊す可能性がある。習はプーチンと個人的な絆を築いてきた。もしトランプがプーチンとの仲を取り戻せば、習にとり西側諸国との対立における重要なパートナーであるロシアと中国の関係が弱まる、との懸念がある。米国が中ロ関係を分断するために、米ロ関係を復活させる、いわゆる「逆ニクソン」政策を展開することが中国にとり外交上の脅威となる。冷戦時代にリチャード・ニクソン大統領がソ連に対抗するため中国に接近したように、トランプがは中国に対抗するためロシアに近づこうとする可能性はある。

 

現在は、大統領選挙の真っただ中にあり、トランプ陣営もバイデン陣営も対中強硬姿勢は崩せない。大統領選が激しさを増せば、トランプは自身の中国に対する容赦ない姿勢を、バイデンの対中姿勢と対比させるであろう。

 

トランプが大統領に復帰した初日に、「中国が第1段階の貿易合意をどのように履行したかを問う。そして、ライトハイザーに(第1期トランプ政権で)やり残したことを再開するよう指示するだろう」(フーバー研究所のマット・ターピン客員研究員)。となれば、今後、中国脅威論はますます高まり、日本の中国との距離のとり方はますます問題となろう。