台湾総統の就任式が目前である。頼清徳新総統はもっともアメリカ寄りとされ、新政権がスタートすれば台湾独立へ向けての動きをみせるのではないかと、中国は神経をとがらせている。アメリカでは大統領選挙のまっただなかであり、台湾をめぐる危機的動きがあればバイデン大統領もトランプ候補もすぐさま応じる気配がある。

故安倍総理がいったように「台湾有事は日本有事」であり、沖縄の先島諸島や尖閣諸島がまっさきに戦闘に巻き込まれる可能性が高い。そのために、日ごろからの抑止はかかせない。

そのような中、5月17日にエマニュエル米大使が日本最西端の沖縄県・与那国島を訪れた。駐日米大使の公式訪問は初めてであり、台湾総統の就任式を前に台湾に対する軍事的な威圧を強める中国をけん制した。エマニュエル大使は日本産水産物の輸入禁止措置を取る中国が日本近海で漁を続けているとした上で、「中国の言葉は偽善的で、言っていることとやっていることが違う」と非難した。

与那国と台湾との距離は110キロしなかなく、与那国から台湾は目視できる。台湾有事の際にはPLA軍と台湾軍の戦闘機がドッグファイトをこの近辺で行った場合は、与那国上空が侵犯され、航空自衛隊はスクランブルを行わねばならず日本は戦闘に巻き込まれる可能性が高い。

また、その状況では与那国など先島諸島からの住民避難が行われていよう。先島諸島の5市町村から九州各県と山口県に住民約11万人を避難させる計画を巡り、政府が8県で計約36万7千人の受け入れが可能だと見積もっている。

先島諸島からの公共機関による避難には、航空機および船舶を利用するが、沖縄県資料によれば平素の輸送力は、八重山地域で5261人/日、宮古地域で3250人/日であり、先島諸島から沖縄本島または県外への避難にかかる日数は、最短で八重山地域からは10.6日、宮古地域からは14.3日かかる 。沖縄県は最大限の派遣を民間航空会社およびフェリー会社等に要請し、なんとか2倍の輸送力の確保に成功した。概ね約5日で避難が完了する見込みとなった。

沖縄県の図上訓練では、輸送力の確保努力により、最大1日あたりの輸送力を約2.36倍の21700人程度と見込んでいる。ただし航空機については、運航に必要な人員体制等の検証はなされていない。船舶については、通常定員の2倍が乗船するものとして試算している 。

しかしながら、戦闘が起こってしまってからの先島諸島からの退避はほぼ不可能であり、戦闘が起こるまえに米軍のEABOで海兵隊が離島に展開した場合の住民の反発は充分に予想できる。さらに、逃げ場のない住民の避難場所も十分に確保できない。

それらのことを十分に考慮したうえで、政府は外交政策を展開させねばならない。抑止と対話、それに戦争を引き起こさない外交政策が必要となろう。